親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE

「実は臭くない!? カメムシ目は、奥深い! 」PART3

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

ダヴィンチマスターズ「いきもの博士の研究室」

 「実は臭くない!? カメムシ目は、奥深い!!」(PART1~4 ※全4編)

PART3 もっと身近なカメムシ目の昆虫たち

いきもの博士「セミ、アメンボ、アブラムシ。君はこの虫たちは見たことあるかね?」
ダヴィンチ君「全部あるよ!セミは夏にいっぱい捕まえたし、アメンボは泳いでいるのを見たことがあるし、アブラムシは育てていたアサガオについていたのを見たよ」「ふふふ。実は今あげた虫たちは、皆、カメムシ目といって、広くはカメムシの仲間なんだよ」

 ダ「セミやアメンボって、カメムシの仲間だったの!?」
「そうさ。カメムシ目は日本だけで3000種類以上もいるんだよ。それに、まだまだ見つかっていない新種がいるんじゃないかと言われているんだ。」

実に奥深いカメムシ目の世界!セミも、アメンボも、アブラムシも同じカメムシ目に属します。一見共通点がないように見える虫たちは、なぜカメムシの仲間とされているのでしょうか?

 博「カメムシ目は、世界全体では10万種近くいると言われているよ。セミや、アメンボや、アブラムシみたいな一目ではカメムシの仲間だと分からないような虫も、カメムシ目に分類されているから、とても数が大きくなっているんだ」

「セミなんて、臭くないし、羽もカメムシみたいに固いところと柔らかいところに分かれてもないよね。なんでカメムシの仲間なの?」
「セミとカメムシは似ていないところが多いけれど、カメムシと同じところもたくさんあるよ。例えば、セミもカメムシも、蛹(さなぎ)にならない不完全変態の昆虫だよ。カメムシ目はすべて、幼虫から直接成虫になるよ」

 ダ「確かに、セミやカメムシはよくみるけど蛹は一度もみたことないや」
「あとは、口の形もすべてのカメムシ目で共通しているよ」


(画像上)ナナホシキンカメムシの口。(画像下)ミンミンゼミの口。

「頭から、針みたいなのが伸びているね。これが口なの?」
「そう。彼らの口は、口吻(こうふん)と、口針(こうしん)という部分に分かれているよ。針のように見えている部分は口吻。この中に、口針が入っているんだ。口針はさらに4つに分かれるようになっているんだけど、4つのうち2つには溝があって、うまく組み合うと2本の管になるんだ。つまり、この鋭い針のような口には、中に2本のストローが隠されていると考えていいよ」

「けっこう複雑なんだね」
「元々は、上下に開くあごだったのが、だんだんと形を変えてきたんだ。液体を主食にしているカメムシ目にとっては、こっちのほうがあごより都合がいいんだよ」

「なるほど、確かにセミは樹液を飲むし、アブラムシも植物の汁を吸うもんね……あれ?じゃあ、アメンボは何を飲んでるの? 池の水? 」
「アメンボが飲んでいるのはね、昆虫のスープだよ」

「えっ! 昆虫のスープ?」
「アメンボの口のストローは、ただ吸うだけじゃないんだ。消化液と呼ばれる、特殊な液体を出す役割もあるのさ。まず、水に落ちてきた虫を見つけて、口を突き刺す。そして消化液をストローから流し込む。すると、消化液の化学反応で、虫の中身は溶けてスープのようになってしまうんだ。これを今度はストローで吸って食べるんだよ」

「うわあ、けっこう怖いね」
「もっと怖いカメムシ目もいるよ。その名はタガメ。タガメは田んぼに暮らす、日本最大の水生昆虫で、6㎝以上ある成虫もいるよ。アメンボは、水に落ちて弱った虫しか食べないけど……」

「まさか、タガメは元気な虫を食べるの!? 」
「その通り。タガメは、小魚や他の水生昆虫を襲って食べてしまうんだよ」


(画像)カメムシ目コオイムシ科タガメ。金魚を捕食している。

「魚もスープにしているの?」
「そうだよ。タガメの口は、カメムシ目の中でも特に太くて丈夫だから、魚のウロコにも簡単に突き刺せるし、消化液も大量に出すことが出来るんだ。カマキリに似た太い前足で、一度獲物を捕まえたら決して逃がさない。時には、アオダイショウのようなヘビを襲って食べることもあるよ」

「ヘビまで食べちゃうんだ。タガメは無敵だね!」
「田んぼの中では、確かに敵なしだろうね。ところが、タガメは絶滅危惧種に指定されていて、今ものすごく数を減らしているんだ」

「え!? こんなに強いのに、なんで?」
「一番の原因は、人間にある。タガメが暮らす、毎年水が張られる自然豊かな田んぼは、近年、開発の影響で少なくなっているんだ。それだけじゃない。田んぼが残っていても、農薬が使われてしまうと、タガメは生き残れないんだ。タガメは体が大きくて丈夫だけれど、エサとなる他の生き物がいなくなってしまえば、タガメもそこでは生きていられないのさ」

「大きくて強い虫でも、人間がこのまま開発を続けたり、農薬を使っていたら絶滅しちゃうんだね。将来、本当に図鑑でしか見られなくなるのは嫌だなあ」
「そうだね。でも、今は、タガメの再生プロジェクトも進んでいるよ。例えば、兵庫県の姫路市では、子どもたちがタガメの幼虫を育てて池に放流するという活動を、10年以上続けているそうだよ。50年前の日本では、タガメはザリガニと同じくらいいっぱいいたんだ。その当時の環境を、一部地域でも再現できれば、タガメは絶滅の心配から逃れられるよ」

「タガメは子どもでも育てられるの?」
「彼らは肉食だから、生きたエサをあげなきゃいけない。そのエサも、無農薬じゃないとダメだから、気をつけないといけないことはあるよ。でも、そういった苦労も含めて、飼育方法を少しでも多くの人に知ってもらうことが、とても重要なんだ。将来、タガメを誰も守れなくなったら、すぐにタガメは絶滅してしまうからね」

「カメムシ目の奥深さを、未来につなげていきたいもんね」
「そうだね。カメムシ目は、種類が多い分、分類のこととか、まだまだ調べなきゃいけない事がたくさんあるんだ。それに、新種が見つかる可能性も十分にある。未来の科学の発展には、ただ開発するだけじゃなくて、現状維持、環境保持というのも大切なんだよ」

「今は、嫌なにおいで人を困らせているカメムシも、いつかタガメと同じように減ってしまうかもしれないと考えると、大切にしないといけないよね」
「良い考えだね。自然とうまく付き合うことが、博士になるためにはとても重要だよ!」

※2020年1月17日、タガメは環境省により「国内希少野生動植物種」に指定されました。これにより、今後タガメの販売及び販売目的での採集は禁止となります。個人での飼育目的の採集および譲渡は依然として可能ですが、愛好家の乱獲による影響を考えたうえでの措置ですので、節度のある採集・飼育を行いましょう。

PART4へつづく

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