新型コロナウイルスは序章? 気候変動がもたらす未来ARTICLE

子どもたちが成人するころ、気象災害も食糧危機も深刻化の予測も

新型コロナウイルスの影響で、学校が休校になり、習い事もお休みになり、子どもたちが集まることもままならないなか、親世代も突然の時差出勤やテレワークの通達があるなど、子育て世帯の生活を大きく揺るがす日々が続いています。
そんななか、新型コロナウイルスが暗示する世界の変化に注目するジャーナリストがいます。『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』(NHK出版)を上梓したデイビッド・ウォレス・ウェルズ氏です。
子どもたちの未来を守るために何をしていけばいいのか、ウェルズ氏が子育て世代にぜひ伝えたいことを、この本の日本での出版を担当したNHK出版の川上純子さんに聞きました。

異常気象や感染症の増加は気候変動が影響

 皆さんは気候変動について、お子さんと話したことはありますか?

 親世代の子ども時代には、東京でも冬は雪の降る日があり、桜は入学式を祝うように咲き、北海道以外の地域は温暖湿潤気候だと教えられていたのではないでしょうか。

 でも今、日本では、以前のような四季の変化が感じにくくなってきています。夏はやたらと暑く熱中症による死亡者が増え、冬は雪不足でスキー場が稼働できないというニュースを毎年のように耳にするようになりました。

 実際、世界の年平均気温は19世紀後半以降100年あたり0.72℃の割合で上昇していて、21世紀末(2081~2100年)における世界の年平均気温は、20世紀末(1986~2005年)と比較して、最も低い予測(RCP2.6シナリオ)で0.3~1.7℃、最も高い予測(RCP8.5シナリオ)で2.6~4.8℃の上昇が予測されています。

 日本はというと、実は世界より速いペースで気温が上昇。特に1990年代以降、明らかに高温となる年が多くなり、予測では21世紀末に最も低くて0.5~1.7℃、最も高いと3.4~5.4℃上昇するとされています(出典:「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018~日本の気候変動とその影響~」環境省 文部科学省 農林水産省 国土交通省 気象庁)

 それでももしかしたらこれまでは、「1℃、2℃気温が上がったくらいで、今の生活ができなくなるわけではないだろう」という風潮があったかもしれません。

 ですがここ数年、国内でも環境庁をはじめ各省庁がこの問題を大きく取り扱っています。例えば「豪雨の頻発、台風の強大化」「熱中症搬送者数や死亡者数が増加傾向」「渇水の発生による取水制限」といった国内で起きている事象から、「水害、森林火災、ハリケーン、熱波の発生数増加」「北極海の海氷の減少」あるいは「蚊を媒介とする感染症(マラリア、デング熱等)が拡大」といった世界的な事象まで、温暖化の影響は確実に私たちの生活を脅かしています。

『地球に住めなくなる日  「気候崩壊」の避けられない真実』([著] デイビッド・ウォレス・ウェルズ [訳] 藤井 留美)

今世紀末までに平均気温が4℃上昇する

 こうした「地球温暖化=気候変動によって、何が起きるのか」を知ることは、これからを生き抜く子どもたちにとって、とても大切なことです。ウェルズ氏は『地球に住めなくなる日 「気候崩壊」の避けられない真実』の中で「平均気温が4℃上昇したら、世界はどうなるのか」について、冷静に、けれども鋭く指摘しています。

 NHK出版の川上さんは「ウェルズ氏は現状の二酸化炭素排出ペースが続けば、今世紀末までに平均気温が4℃上昇するという予測が現実味を帯びてきていると指摘し、下記のことが起こると警鐘を鳴らしています」と話します。

・地球規模の食料危機が毎年発生する。
・酷暑関連の死者が全体の9%以上を占める。
・複数の気象災害が1カ所で同時発生することが増え、損害は世界全体で600兆ドルに達する。
・紛争や戦争が倍増する。


 「早ければ10年後に、気温が2℃上昇してしまうかもしれない。そうなれば、水不足や大気汚染など、人類が経験するのはこれまでにない、厳しい環境の変化だと言われています。もはや他人事ではありません」(川上さん)

 実際、昨秋も台風や豪雨などの自然災害は日本全国に大きな傷跡を残しました。これは、たまたまではないことは明らかで、「老若男女問わず、気候変動の問題には取り組まなければならない時代が来ていると言えるでしょう」(川上さん)

気温上昇を「2℃未満」に抑えるためにできること

NHK出版の川上さん

 こうした未来を見据え、川上さんは、今の親世代だからこそできることがあると言います。


 「お父さんやお母さんが子どものころよりずっと、桜が咲く季節が早まっていることや、春一番が吹くのは3月だったこと。あるいは最高気温が35℃以上の猛暑日はもちろんのこと、30℃以上の真夏日、夜間の最低気温が25℃以上の熱帯夜が右肩上がりで増えていることなどを、お子さんに話していってほしいのです」(川上さん)

 子どもたちが生まれ育っているのは、既に温暖化が進んだ日本。温暖化と言われても、実感しづらいかもしれません。でも、気候は確実に変わってきている。そのことを伝えられるのは、やはり身近にいる親や家族なのです。


 「冬でも温かくていいよね、というのではなく、気候が変わり、歴史が変わってきていること、その原因が、人々が二酸化炭素をたくさん排出してきているからということを、まずは教えましょう」(川上さん)

 そのうえで、何ができるかを考えていく──。


  「世界各国が気温上昇を『2℃未満』に抑えることを喫緊の課題だと理解しています。この課題に取り組もうとすると、あまりに大きすぎて、自分ごとに考えにくくなってしまうかもしれません。でも、例えば、プラスチックをなるべく使わないように心がけるとか、一つひとつの行動は些細なことに感じられるかもしれませんが、お子さんが自ら動き出し、学校で話したりする。
 地球絵は温暖化が進んでいて、このままでは自分たちが大人になるころには、きれいな桜が咲かなくなるかもしれない。そんな話ができるようになれば、子どもたち自身が気候変動を自分事として考えるきっかけになるのではないかと思います」(川上さん)

 温暖化という問題に気づき、気温上昇を『2℃未満』に抑えるという課題に向き合い、その解決を考える──これは、非認知能力を高め、生き抜く力を付けていくためにも大切なこと。

 子どもは親の子ども時代の話を聞くことを好む傾向があります。親にしてみたら自分が経験してきたことは臨場感を持って話しやすい。親子で実際に起きたことを話すうちに、やがて、なぜ雨の日が長く続くようになったのか、なぜ自然災害が増えているのかといったことに話を発展させ、こうした災害が経済破綻にまで結びついていくということを理解していくことが可能になるでしょう。


 「私たちが考えなければならないのは、今の子どもたちが大人になったときに、さらにその子どもたちに『昔の人たちは、環境のことも考えず、プラスチックを使いまくって、エネルギーを使いまくっていたなんて、本当にひどいね』と言われるような社会がすぐそこに迫ってきているということ。
 今起きていること、事実を理解し、最悪の事態も予測したうえで、どう取り組んでいくか。企業も変わりつつある今だからこそ、自分たちのことも、自分たちの子どもの未来もあきらめず、取り組んでいく。環境問題に絶望し、怯えるのではなく、子どものためのよりよい未来を築くために今、できることをぜひ考えていってほしいと思います」

プロフィール

デイビッド・ウォレス・ウェルズ(David Wallace-Wells)
アメリカのシンクタンク〈新米国研究機構〉ナショナル・フェロー。ニューヨーク・マガジン副編集長。パリス・レヴュー元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事「The Uninhabitable Earth」をニューヨーク・マガジンに発表、同誌史上最高の閲覧数を獲得した。2019年、記事と同タイトルの書籍(本書)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。NHK出版『地球に住めなくなる日』

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