親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE
博士の休憩室 三竦みって?
生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!
ヘビ、続いてカエルの話をしましたが、ここであるものが浮かんだ人もいるはずです。
三竦み(さんすくみ)。これは、「AはBに強く、BはCに強く、CはAに強い」といったような関係のことです。分かりやすい例だと、じゃんけんのグー、チョキ、パーの関係が三竦みですね。この三竦みですが、昔から知られているもので、ヘビ、カエルの2種類を含むものがあるのです。ダヴィンチ君と学んだように、ヘビはカエルを食べてしまうので、ヘビはカエルに強いです。「蛇に睨まれた蛙」ということわざも有名ですね。では、三竦みを作る残りの1種類、カエルに弱く、ヘビに強い生き物とはいったい何でしょうか?
ちなみに、この三竦みが登場する有名な作品に、少年ジャンプで連載されていた『NARUTO』があります。その作品を知っている人であれば、伝説の三忍の口寄せを思い浮かべてみてください…。
正解は、ナメクジです。ナメクジは、動きがのろく、またカエルが好む湿度の高い環境に多く暮らすので、カエルの恰好のエサです。なので、カエルがナメクジに強いことには納得がいきます。では、ナメクジがヘビに強いとは、一体どういうことなのでしょうか? これには、色々な説があるのですが、一説には『関尹子(かんいんし)』という中国の書物に、「ナメクジはカエルを恐れ、カエルはヘビを恐れ、ヘビはナメクジを恐れる」と書かれていたことに由来すると言われています。ナメクジが恐れられるようなことはあまりない気がしますが、雑木林なんかに生息する、民家で見られるナメクジとは別種の、ヤマナメクジという大型のナメクジを見ると、かなり納得がいきます。 (画像)ヤマナメクジ。日本の山林にも多く生息する。
ヤマナメクジは大きいものだと20センチほどあることもあり、見た目のインパクトはかなり大きいものです。山で突然、20センチもあるナメクジのナメクジに出くわしたとなったら、こいつはヘビでも恐れるなあと思うのも自然な気がします。
またこの「関尹子」からは、実は誤訳が伝わったとされる説もあり、本来、ナメクジと訳された語はムカデを意味していたという話もあります。これもまたよく分からない話ですが、ヘビ以上におどろおどろしい生き物として、このように関係づけられたのではないのでしょうか。
一方、日本には昔から、ナメクジはヘビを溶かしてしまうという迷信もあったようです。これの由来はよく分からないのですが、私の見解では、キノコに関係があるのではないか、と考えています。キノコはナメクジの好物なのですが、キノコは時々、雨のあと一夜にして大量に生える、群生を起こすことがあります。雨の後なので、そのキノコにはナメクジがたかっていることも多いのですが、その群生の形が、場合によってはヘビがとぐろを巻いたように見えることがあるのです。これを見た人々が、ナメクジがヘビを溶かしてキノコに変えてしまった、と思うようになったのではないのでしょうか。
さらには、日本の江戸時代の書物『咄随筆(はなしずいひつ)』には、「蛇茸となる」という話が書かれています。この話は、まさにヘビがキノコになる話なのですが、ナメクジは登場せず、カエルとヘビのみが登場します。簡単に話を要約するとこうです。ある人物が、山で休んでいると、ヘビ、続いてヒキガエルが出てきた。見ていると両者はにらみ合いになった。するとヒキガエルの方が、ヘビに落ち葉をかぶせ始めた。ヘビはじっとしたままで、やがて落ち葉に埋もれてしまった。するとヒキガエルは埋もれたヘビの上に、小便をした。そして降りてくると、ヘビの埋もれた落ち葉の山は動き出し、大きなキノコに変わってしまった!ヒキガエルはヘビからできたキノコを食べると、どこかへ行ってしまった……これはつまり、ここまで話してきた三竦みが崩れてしまいました(もちろん、科学的にはあり得ない話です)。カエルがヘビに勝ってしまったのです。
ここで、ダヴィンチ君と学んだことを思い出すと、気づくことがありますね。そう、ヘビに勝ったカエルはあの毒ガエル、ヒキガエル(蝦蟇)だったのです!昔の人は三竦みを知りながらも、ヤマカガシ以外のヘビがヒキガエルを避けることを知っていて、例外を知らせるために、このような話を書いたのかもしれませんね。
(画像)ヒバカリとヒキガエル。このような関係なら、ヒバカリはキノコにされてしまうのでしょうか?