親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE

本物なのに、モドキ?

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

夏のある日。公園の林で、ダヴィンチ君はナナフシの幼虫を見つけました。

ダヴィンチ君「こんにちは、博士!」
いきもの博士「こんにちは、ダヴィンチ君。今日はどんな生き物に出会ったのかな?」

「見てみて! すごく小さいけど、これってナナフシだよね? 公園の林で、ベンチの上を歩いているのを見つけたんだ」

(画像)ナナフシモドキの初齢幼虫。体長約15 mm

 博「おお、これは確かに短い触角が特徴のナナフシモドキだね!」

「あれ?ナナフシモドキ……てことは、この虫はナナフシじゃないの? 」
「ふふ、この虫はナナフシであり、またナナフシモドキでもあるんだよ」

「どういうこと? モドキって、似ているけど違う……みたいな意味だよね? 」
「その通り。名前にモドキとつく昆虫は多いけど、基本的には、別の虫に似ているけど少し違う種類という意味で使われるね。例えば、カミキリモドキの仲間だと、見た目はカミキリムシにそっくりだけど、かなり柔らかい体をしていて、体内にカミキリムシにはない毒を持っているんだ」

 

「じゃあ、ナナフシモドキにも、ナナフシと似ているけど、違った何かがあるってこと? 」
「いや、ナナフシモドキはあくまでナナフシの仲間で、特別変わったナナフシではないよ。むしろ、ナナフシの代表種といっていい種だね。実は、ナナフシモドキのモドキは虫のナナフシに似ているという意味ではないんだ」

「虫じゃない“ナナフシ”に似ているってこと? 」
「そうさ。ナナフシは漢字で書くと七節。七つの節、つまりは枝の分かれ目が七つある、木や竹のことだよ。これに似ているから、七節モドキ。分類学では、初めはナナフシモドキという名前を正式な和名(日本語名)にしようといていたみたいなんだけど、モドキをつけなくても、ナナフシと言えばあの虫のことだと伝わるから、やがてモドキは付けないで呼ばれるようになったんだ。分類学を追っていくと、段々とナナフシモドキがナナフシに変わっていくのが確認できるよ」

「へえー。ややこしいけど、ナナフシって言葉自体に木の枝っていう意味もあると考えると、確かにモドキがついていてもおかしくないね」
「そうだね。ちなみに、ナナフシモドキの成虫はこんな感じ」


(画像)ナナフシモドキの成虫。体長90 mmほど。前脚2本は揃えて前に伸ばしているため、4本脚に見える。

「わあ、本当に木の枝そっくりだ! 節の数も、名前の通り七つなのかな? 」
「ナナフシモドキの節の数は14。実際は名前の2倍もの節があるんだよ」

「……昔の人はちゃんと数えてなかったんだね」
「確かに、そう思っちゃうよね。でもどうやら、ナナフシは江戸時代には毒のある虫として知られていたみたいなんだ。じっくり観察する人がいなかったんじゃないかな」

「あ、手に乗せて連れてきちゃったけど、まさか毒はないよね」
「もちろん。なんで毒を持つと思われていたかはよく分からないんだけど、江戸時代の博物学の書物『千蟲譜(せんちゅうふ)』には、ナナフシが大毒蟲と書かれているんだけど、その横に、クモの一種だけど、糸は出さないとも書かれている。このクモの一種という内容も間違いなんだけど、クモもナナフシも足が長いから、同じ仲間だと思われてたんじゃないかな。それで、クモは毒のある種類も知られていたから、ナナフシも毒があるように勘違いされたんだと、博士は考えているよ」

「なんだか、ヒバカリの話に似ているね」
「そうだね。ヒバカリもそうだったけど、ナナフシもいつも見かける昆虫じゃないから、こういう間違いが広がりやすかったのかもね」

「確かに、本当に枝そっくりだから、木の葉なんかに紛れていたら絶対見つけられなかったよ。でも、このナナフシは公園のベンチの上を歩いていたんだ。何でだろう? 」
「それはね、ナナフシが木の上から、卵を地面に落として産むからだよ。秋に産み落とされた卵は、初夏になると孵る。そして、幼虫はエサのある木の上を目指すんだ。ダヴィンチ君が見つけたのはその途中だったってことさ」

「なるほど。じゃあ、ナナフシは木の上で暮らしているんだね。でもそれなら、木に卵を産んだ方が安全じゃないの? わざわざ地面に落としちゃったら、木の上をめざしている間に他の生き物に見つかっちゃうよね。僕が簡単に見つけられたみたいにさ」
「いやいや、地面に落とすほうが実は安全なんだよ。ナナフシモドキもそうなんだけど、多くのナナフシはクヌギ、コナラ、エノキといった木の葉を食べるんだ。そして、これらの木は冬が近くなると葉を全て落とす、落葉樹なんだ。つまり、卵で過ごす冬は地面が落ち葉だらけになる一方で、木は裸の状態になる。この状態だと、鳥とか、他の生き物に見つかりやすい木の上より、落ち葉の中に紛れ込んでいた方がよっぽど安全というわけさ」

「なるほどね。この子はいま、人生で一番の冒険をしていたってことか。なんだか、捕まえたのが申し訳なくなってきたよ」
「それなら、ダヴィンチ君が飼ってあげて、成虫に育ててあげようよ! 実はナナフシの飼育は昆虫の中でもかなり簡単だよ。よし、次はナナフシの飼い方を教えてあげよう!」

つづく

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