親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE
「 春の女王バチは、人を刺している場合じゃない!? 」PART4
生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!
ダヴィンチマスターズ「いきもの博士の研究室」
「必殺、『熱殺蜂球』!命を懸ける、おばあちゃんたち! 」
毎年1万匹の子供を産むミツバチの女王バチ。過剰に思えるくらい産む理由は、最大の天敵、オオスズメバチの襲来にあるようです。
ダヴィンチ君「オオスズメバチは、ミツバチを襲ってどうするの?」
いきもの博士「彼らはなにより、ミツバチそのものを食べるためにミツバチの巣を襲うよ。オオスズメバチは肉食性で、自分たちが捕まえてきた昆虫をかみ砕いて作った肉団子を幼虫に与えるんだ。そんな彼らから見ると、ミツバチは花粉を集めたり、作った蜂蜜を体内にためたりしているから、とても栄養が豊富なんだ。おまけに、ミツバチは小さくて、針は持っていてもか細いからオオスズメバチを貫通することは難しい。そうとなれば、ミツバチは簡単に捕まえられる、効率の良い栄養食ってわけさ」
(画像)オオスズメバチの働きバチ。40 mmほどで、体長はミツバチの約4倍、体重はミツバチの約30倍の3000 mgほどもある。
ダ「なるほど。確かに、ミツバチの体格じゃオオスズメバチには敵わないよね。でも、本当に何も出来ないんじゃ、ミツバチは全部オオスズメバチに食べられていなくなっちゃうんじゃないの?」
博「そうだね。本当に、ミツバチが何もしなければ、ミツバチは絶滅してしまうだろうね。でも、ミツバチには一万匹もの数という武器がある。この武器を、ミツバチは上手く使って、オオスズメバチを倒すことができるんだよ」
ダ「ミツバチが、オオスズメバチを倒す!? どうやるの? 」
博「必殺技を使うんだ。その名も、熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)! これは研究者の間でも使われる名前だよ。ミツバチは、おしくらまんじゅうで冬を越すと言ったね。あれを、スズメバチを取り囲むように使うんだ。そうすると、スズメバチは暑くて死んでしまうんだ」
ダ「おしくらまんじゅうで、暑くて死んじゃうの? それって、ミツバチも死んじゃうんじゃない?」
博「いや、先に死んでしまうのはオオスズメバチと決まっているんだ。その理由は、ミツバチとオオスズメバチの、致死温度の違いにあるよ。致死温度というのは、その温度に体温が達すると、死んでしまう温度の事。これが、ミツバチがだいたい48℃であるのに対して、オオスズメバチは45℃なんだ。つまり、おしくらまんじゅうの中の温度が45~47℃の状態だと、やがて体温が上昇していってオオスズメバチだけが死んで、ミツバチは生き残ることができるんだよ」
ダ「そんな秘密があるんだ! でも、けっこう細かい温度調整が必要だね。どうやっているの?」
博「ミツバチの遺伝子には、体温が48℃近くになると、おしくらまんじゅうを温める動作、つまり羽を細かく動かす動作を止めるように働く部分があるんだ。要は、致死温度近くになると、温度の上昇がとまる本能があるんだよ。オオスズメバチを倒すことに特化した、本能と言えるね」
ダ「よく考えられているんだね!でも、やっぱり食べられちゃうハチもいるから、数が必要なんだね」
博「そうだね。それに、ミツバチは致死温度まで上がらないとはいえ、ほぼ致死温度と同じくらいの体温にはなる。そして、オオスズメバチを倒すまでには1時間くらいかかるから、体力の消耗も大きいんだ。その場では死ななくても、終わった後の寿命は半分以下になってしまうんだよ」
ダ「それもそうだよね。でも、寿命が半分って、越冬できなくなっちゃうんじゃないの?」
博「確かに、熱殺蜂球に参加した働きバチは冬を越すことが出来ない場合が多いよ。だからこそ、熱殺蜂球に参加する働きバチにはある決まりがあるんだ。それは、老いた働きバチが積極的に参加して、若い働きバチはあまり参加しない、というものさ。これも、遺伝子による本能的な行動なんだけど、これによって、寿命が長くて女王を温めて冬を越せる若い働きバチが生き残るんだ。身を挺して、おばあちゃんが若者を守る。そうして守られた若者は、次の年には熱殺蜂球に参加して、また新たな若者を守るんだ」
ダ「へえー、そこまで考えられているんだ。すごいね!」
博「長い年月をかけて、ミツバチはオオスズメバチに対抗する最善の策を本能的に磨いて、遺伝させてきたんだよ。オオスズメバチも、ミツバチが必殺技を持っていると知っていても、栄養を求めて襲ってくる。互いに、命をかけて、幼虫の未来をかけて戦っているんだ」
ダ「遺伝子は、その戦いの証なんだね。前はハチを見たら怖がってばかりいたけど、なんだか応援したくなっちゃったよ」
博「良いことを言うね、ダヴィンチ君!自然界のドラマを、これからもたくさん見ていこう!」