人工冬眠技術を研究! 理化学研究所 砂川玄志郎先生インタビューARTICLE

砂川玄志郎先生インタビュー「人工冬眠技術で、病気の進行を遅らせたい」

ダヴィンチマスターズwith KOBEで「冬眠のふしぎ!」にご登場いただいた理化学研究所 基礎科学特別研究員の砂川玄志郎先生は、小児科の臨床医として多くの命と向き合ううちに、「人工冬眠技術」に取り組むようになりました。今回は砂川先生に、その技術について、先生が研究するようになった経緯について、そして子ども時代についてお話を聞きました。

人工冬眠技術で、病気の進行を遅らせたい

ダヴィンチマスターズ(以下、──)
「人工冬眠技術」とは、どんな技術なのでしょうか?

砂川玄志郎先生(以下、砂川先生)
冬眠」という言葉自体はイメージがわきやすいと思います。動物の冬眠で言うなら、体内に栄養をある程度貯めて、体温を低く維持することで栄養を確保しにくい冬を越えるということですね。つまり、長期間にわたって体にダメージを与えることなく代謝を抑制する、「代謝抑制」が冬眠の本質なのです。

 僕が現時点で研究しているのは、主に「冬眠動物」がどのように「代謝抑制」を行っているのかについてです。それがわかれば、人工的な「代謝抑制法」が実現できるかもしれない。つまり、冬眠しない動物を「冬眠に近い状態にする」という技術です。最終的には、人間で可能にさせたいと思っています。

 人間は冬眠しないと考えられています。食物から取り出したエネルギーを、代謝によってあらゆる生命活動に用いて日常生活を送っています。普通生活している限り、代謝を下げた省エネ状態で過ごす必要はありません。しかし、病気やケガなどでエネルギーの供給能力が急激に落ちると、最低限の生命活動を維持するエネルギーが得られず、症状の進行を止めることも治すことも難しくなります。

 現代の医療では、酸素吸入や点滴などでエネルギー供給量を増やし、バランスを保とうとします。一方、患者さんの新陳代謝を人工冬眠技術によって抑制し、生命活動のためのエネルギー需要そのものを下げることができれば、病気の進行を抑えられるのではないか。それを追求することが目的です。

 たとえば、治療を受けるまでの時間が生死をわける病気もたくさんあります。人工冬眠によって病院までたどり着く時間を稼ぐことができるのではないかと思っています。僕は特に小児科医なので、小児の領域で考えることが多いですが、実際に人工冬眠技術が実行できるようになると、脳梗塞や心筋梗塞などもそうですが、病気を発症しやすい大人こそ、恩恵が受けられるのではないかと思っています。

「勉強しなさい」と言われたことはない

──先生はなぜ、小児科医になられたのでしょう?

砂川先生
実は僕は、自分のことを「プログラマー」だと思っていますし、老後もこれで生きていこうと思っています。何か書類があって職業欄に1つしか職業を書けない場合には「プログラマー」と記しています

──そうなのですね!? それは驚きでした。でも実際には臨床医としてお仕事をされていますし、お父様も医師でいらっしゃるとお聞きしました。

砂川先生
僕は5人きょうだいの長子で、常にきょうだいの世話をする、小さい子どもたちと接触することが多かったことが、小児科医になったことに関係しているとは思います。

──先生は現在、世の中を変えるような技術の研究に携わっていらっしゃいますが、家庭での教育環境が影響していると思われますか?

砂川先生
小さいときから、「世の中のためになることをしなさい」とは言われていました。ただし、「勉強しなさい」と言われたことはありませんし、「好きなことをやりなさい」ときょうだい全員が言われていました。ですので僕自身は、5~6歳のときにプログラミングに出会ってから、プログラマーとして生きていこうと考えていたくらいです。ただ、「それだけではだめだよ」と言われてはいましたね。

──「それだけではだめ」となると、苦手なことにも取り組まなければならないということでしょうか。

砂川先生
必ずしもそうではないですね。僕は、仕事や勉強に関しては、好きで得意なことをずっとやってきました。ただ、基本的に嫌いな科目はなかったんです。それぞれの科目で、興味を引くところは少しずつあるものですから。

 もちろん、どうしても苦手なことはありますし、好きになれない作業はある。そういうものは無理に手を出さず、得意な人にお願いしたり任せたりすればいいと思っています。

自分で考えて、自分で動くことができるようにする

──先生が「人工冬眠技術をやろう」と思ったように、子どもたちが「これをやろう」というもの、自らの課題を発見するには、どのような経験が必要になるでしょうか。

砂川先生
どういう経験をすればいいということはありませんが、さまざまな事柄に対応できるようになった方が強いとは思っています。

 今の子どもたちが大人になり生活する、20年、30年後は現在よりも環境が多様化していることは見えていますよね。技術の発展に伴って、これまではある程度の集団に対して平均的に提供されていたサービスが、個別化の一途をたどると思います。どんなふうに世の中が変わるかなんて誰にもわからないので、変わりゆく世の中に対応するためには、いろんな体験をして、わからないことは自分で考えることができるようになること。それにより、今後を生き残ってくことができると思っています。ですので、大人がそういうことを意識して、子どもたちと接していくとよいのではないでしょうか。

 少なくとも、子どもたちが大人になったときに自分で考えて、自分で動くことができるようにする。

──親はつい、子どもの将来のためと考えて、習い事や塾通いなど詰め込んでしまいがちですが、その点はいかがでしょうか。子どもたちが自分で考える機会を奪うことになるのかなと心配になります。

砂川先生
僕は、学習塾や習い事には良い面があると考えています。例えば学習塾は、その子にあわせて教えてくれますよね。それに、自分が得意と考えている教科でも、自分よりできる人がたくさんいるなど、見える化されやすい。それが学習塾に通うことの大きなメリットだと思うんです。もちろん、自分がちょっと得意と思えるところも見える化されますよね。

タブーを作らずに、何事にも挑戦を

──低学年のうちにしておいてほしいこと、興味を持っておくといいかなと思うことなどを、保護者向けに教えていただけますでしょうか。

砂川先生

 基礎学力は付けた方が良いと思います。良いところ、得意なことを伸ばすことは大切ですが、最低限、これはできなければいけないねということは、少々スパルタでもやっておいた方がいい。

 それ以外の経験は、その子が好きなこと、やっていて楽しいことをしていく。好きなことや楽しいことは、親御さんが探すのを手伝うといいですね。やってみないとわからないですから。

 ゲームでもいいんです。例えばマインクラフトだって、小学生のうちから取り組んで壮大なプログラミングを成し遂げることができるようになっていくケースも見聞きしますよね。僕らの子ども時代より選択肢が広がっていますから、理想的には、子ども自身が気づかないうちに、楽しみながらそこに入っていけるように、体験する機会を与えてあげられるといいと思います。

 できるだけタブーをつくらずに、何事にも挑戦させてあげる。あるいは、親御さんも一緒にやればいいのではないかと思います。大人も新しい体験ができるわけですし、昔と違って、大人が絶対的に優位に立てるものはないということ、親はスーパーマンではないということを示すことは、非認知能力の向上にもつながると思います。

──それでは最後に、子どもたちにメッセージをいただけますか?

砂川先生
何か興味があることがあったら、それをどんどん、まわりの大人に質問してほしいと思います。たぶん、今の大人たちはわからなかったらすぐにインターネットで検索するでしょう。昔は「図書館で調べてきなさい」と言われたはずのことが、すぐに手元で調べられてしまう。でもそれは悪いことではありません。

 疑問に思ったら、お父さんお母さんに聞いてみてください。インターネットがあるというのは、すごいことです。ただし、使い方は、リテラシー含めて難しいので、親子で一緒に調べていく。するとやがて自分自身で、正しい情報にたどり着けるようになると思います。ぜひ興味があることは調べて、どんどん探求していってください。

プロフィール

砂川玄志郎(すながわ・げんしろう)
国立研究開発法人理化学研究所 生命機能科学研究センター 老化分子生物学研究チーム 上級研究員 兼 網膜再生医療研究開発プロジェクト 上級研究員/小児科医
福岡県生まれ。京都大学大学院医学研究科にて博士(医学)取得。大阪赤十字病院、国立成育医療センターで医師として勤務。2015年から理化学研究所 多細胞システム形成研究センター(当時)網膜再生医療研究開発プロジェクトでマウスを用いた冬眠研究を開始。現在も研究真っただ中。

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