親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE

噛まれたら、その日ばかり!? 変わった名前のヘビたちの秘密Part1

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

暖かくなってきた5月のある日。ダヴィンチ君は、地味な色をした小さいヘビを見つけました。

ダヴィンチ君「こんにちは、博士!」
いきもの博士「こんにちは、ダヴィンチ君。今日はどんな生き物に出会ったのかな?」

「今日はね、近くの公園でヘビを見たんだ。ヘビってなかなか見ないから捕まえたかったんだけど、もし毒ヘビだったらどうしようって思って、結局捕まえなかったんだ」
「なるほど。そろそろ冬眠から目覚める時期だもんね。東京にいる陸生の毒ヘビはマムシとヤマカガシの2種類だけど、マムシは夜行性で、あまり人前には出てこないから、毒ヘビだったらヤマカガシだね。東京にいるヤマカガシは黄色と赤の模様が特徴的なんだけど、ダヴィンチ君が見たヘビはどんな色だった?」


(画像)ナミヘビ科ヤマカガシ。画像の個体は高尾山で採集されたもの。東日本と西日本で色合いが異なり、西日本の個体はやや青みがかる。

 ダ「たしか、全体が茶色で、頭のところだけ黄色い模様があったよ! 」
「都会の公園にもいる、頭に黄色い模様がある、全身茶色のヘビ。ズバリ、ダヴィンチ君が出会ったのはヒバカリというヘビだね!」


(画像)ナミヘビ科ヒバカリ。30 ㎝ほどの小型のヘビ。

「そうそう、こんな感じの小さいヘビだったよ! ヒバカリって名前なの? なんだか変わっているね」
「ヒバカリという名前はね、このヘビに噛まれたら、『その日ばかり(その日に)』で死んでしまう、という話から来ているんだよ」

「え!? それって、猛毒ってことだよね? 毒ヘビはマムシとヤマカガシだけじゃないの? 」
「昔の人は、ヒバカリが毒を持っていると信じられていたんだ。だけど、今はヒバカリが毒を持たないことが解明されているよ。つまりは、勘違い、迷信から来た名前なのさ」

「な~んだ。びっくりしたー。でも、なんでそんな風に思われてたんだろう。実際に、死んだ人はいないはずでしょ? 」
「それはね、たぶん、ヘビが昔から神聖な生き物として見られてきたことに原因があるんじゃないかと思うよ」

「どういうこと?」
「ヘビは、脱皮を繰り返して大きくなるんだけど、その様子が若返っているように見えたり、常に目を開けているという習性だったり、鱗が光って見えたりすることから、ヘビは神様の遣いとか、あるいは神様そのものだと昔から信じられてきたんだ。ヘビの姿をした神様で一番有名なのは、日本神話に登場する、八岐大蛇(やまたのおろち)だね」

「八岐大蛇はきいたことあるかも」
「ほかには、同じく日本神話に登場する大物主(おおものぬし)という神様や、主に長野県で信仰されているミシャグジさまなんかも、ヘビの姿をしていると言われるね。日本のあちこちで、ヘビはありがたい生き物だと思われていたんだ。その一方で、足がない、変わった姿で、音もなく獲物に忍びよる姿から、祟りを起こすような存在と思われることも多かったみたいだよ。昔の人はヘビに対して色々な見方をしていて、やみくもに捕まえることをしなかったんだろうね」

「なるほどね。でも、それなら毒を持っていることにしなくても良くない?」
「確かに、そんな気もするね。でも、マムシの毒は昔から知られていたよ。例えば、成り上がりの武士として有名な斎藤道三は、美濃のマムシと呼ばれていた。これは、人を驚かす危険な仕事をした人物を、マムシというあだ名で呼ぶ文化があったからなんだ。ヘビは危険な生き物であるというのもまた、昔からの認識なんだ」

「そうだったんだ。名前一つでもなかなか奥深いね。考えてみるとヤマカガシとか、マムシもちょっと響きが変わっているよね」
「カガシと言うのはヘビの昔の呼び方だよ。つまり、ヤマカガシは、山のヘビという意味になる。マムシは一説には、真虫という字から来ていると言われているよ。毒を持って他の生き物をしとめる様子が、虫の中の虫、真の虫であると思われていたようだね。今はヘビを虫とは言わないけれど、昔の人はタヌキやキツネのような獣以外の生き物は、まとめて虫と呼んでいたんだ」

「どっちの名前も、昔の日本語がもとになっているから、変わって聞こえるんだね」
「そのとおり。それだけ、ヘビは昔から人に良く知られていた生き物ということさ」

「なるほど。でも、博士のおかげで、もう昔の人よりヘビに詳しくなっちゃったよ。ヒバカリは小さくて、黄色い模様がオシャレで可愛い毒のないヘビ! 今度見つけたら、捕まえてみようっと! 」
「いいね、ダヴィンチ君! でも、ただ捕まえるだけじゃもったいないよ。ヒバカリは、日本のヘビの中でもかなり飼いやすいんだ」

「え! ヘビって飼えるの? 」
「種類によっては、温度変化が苦手だったり、大量のエサが必要になるから難しいこともあるんだけど、ヒバカリには都会の公園にも暮らせる適応力があって、エサも簡単に捕まえられる「ある生き物」でいいから、とても飼いやすいんだよ。よし、次はヒバカリの飼い方について教えてあげよう!」

Part2へつづく

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