学校、家庭、地域の連携が子どもたちの学力を高めるARTICLE
大館市教育委員会 教育監 山本多鶴子氏講演 「高い学力の秘密は、学校と家庭と地域の連携に! 秋田県大館市の教育とは」より【前編】
「自立」と「起業の精神」を学ぶプロジェクトへの参加
秋田県大館市は、小中学生の学力検査で常に上位にある秋田県の中でも、トップクラスの結果を出していることで知られています。
そんな大館市ではどのような教育が行われているのでしょうか。
大きな特徴が学校、家庭、地域の連携です。
例えば豊かな自然に囲まれた大館市釈迦内地区で行われている「釈迦内サンフラワープロジェクト」。2010年、釈迦内小学校が行った「元気いっぱいひまわり油プロジェクト」が東北経済産業局主催の「地域の魅力発信アイディアコンテスト」で小中学校部門の最優秀賞となる大賞を受賞。
これを機に子どもから大人までが参加する、「ひまわり」をテーマにした「釈迦内サンフラワープロジェクト」が始動しました。
休耕田を活用してひまわりを植え、種ができたら収穫。隣町の業者に絞ってもらい、オリーブオイルよりも高級な油と言われる「ひまわり油」にするのです。子どもたちはひまわりを育て収穫し、「ひまわり油」という商品に仕上げていく。
一連の活動から「自立」と「起業の精神」を学び、ひまわり油の販売収益金は学校へ還元、長期宿泊体験学習費などに充当されると山本さんは言います。
子どもたちが「役に立っている」と実感することが先につながる
また、「子どもハローワーク」も、全国から注目される取り組みです。
大館市では「子どもと社会」「子どもと地域」「子どもと大人」「子どもと未来」をつなぐハブ機能と位置づけ、子どもたちが土日や長期の休業期間に、地域や企業が行う仕事やイベントのお手伝い、ボランティア、職場見学や職場体験が自由に選べ、何度でも体験できるようにしています。
こうした大館市の取り組みは、来年度から小学校で始まる新学習指導要領と方向性がほぼ同じだったと山本さんは言います。
「初めは大館のためにということで始めたふるさとキャリアプログラムでしたが、結果的に、新学習指導要領と方向性が同じだったのです。
20、30、40年先は、私たちが予測できないような未来になっていくでしょう。そういった未来を作り、生き抜いていけるような子どもたちを育てるための、プログラムなのです」
全国学力・学習状況調査によると、秋田県の地域でのボランティア参加率は全国より高く、大舘はその中でも高いといいます。
「この8年間の活動の中でうれしかったのは、学力の高さよりも、子どもたちが地域のために何をすべきかを自分たちで考えるようになっていること、人の役に立つ人間になりたい子どもの多さが注目されてきている点です」
人の役に立てるという実感が日常的に得られることも、さらに役に立ちたいと子どもたちが願う動機として大きいと山本さん。
「大館では、すれ違う大人に子どもたちが積極的にあいさつをします。
当初こそ学校であいさつをするように指導があったものの、実際に市民の方々にあいさつをして、話しかけるととても喜んでもらえると体感すると、『自分たちのあいさつが役に立っている』『もっと役に立つ人間になりたい』と思う動機を得られるのです」
学校では「主体的に学ぶ姿勢」を育めるかがポイント
では学校での教育は、他の地域とどう違うのでしょうか。
「大館では授業の質を大切にしています。学習塾がほとんどないため、都会なら塾で補うようなことも、公教育が担っていると言えます」
となると毎日何時間も補習授業をしているのだろうか……と考えてしまいますが、そうではないそう。
「先生方が1時間、1時間の授業に勝負をかけ、1分1秒無駄にしない授業を構築したいという姿勢で日々、臨んでいるからなのです」
特に大事にしているのが「主体的に学ぶ姿勢」。
「先生はその日の授業で課題をつかむまではものすごく力を入れ、子どもたちが『なぜだろう、このことを学びたいな』と思わせるところまでは大変なエネルギーを注ぎます」
また一般的な学校の授業と異なり、「先生が言ったことをそのまままとめるのではなく、子どもたちの思考力・判断力・表現力を磨く授業(考え抜く力)になっているのです」と山本さん。
友達との共感性を大事にした授業
さらに、みんなで一つの課題に向かって解決していくという、集団で学び合う授業(チームで働く力)スタイルも活用しているといいます。
「今の大館市内の学校の授業は、先生が教えて子どもたちが覚えるという授業ではありません。
ですので大館市では『授業』という言葉自体が合わないと考え、共感的・協働的学び合いの場として『響学』という言葉を用いて表現しています。
つまり子どもたち同士、先生と子どもたち同士が響き合うような教育を提供しているといえます」
次の学習指導要領では「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)」が謳われていますが、大館では特に友達との共感性を大事にしていると山本さん。
話し合いができるということは一方的に自分の思いを伝えるのではなくそれを聞く側が育っていないと対話になりません。
聞き手を育てるということを意識し、誰か一人が発言したことに対し、周りの子どもたちが「なるほど」と受け止められたり、似ているけれど違いますという付け足しができたり、フォローし合ったりできるようにしているのだと言います。
「間違うことを臆せず話ができるのは、共感性を大切にしたからこそ。
そしてこうした教室の中での学びは、教室の中だけで完結しているわけではなく、様々な地域に出かけての活動の成果が教室に持ち込まれ、教室の中での成果が地域での活動に結び付いているという循環ができてきています」