勉強を勉強と思わせず、楽しみながら算数好きにARTICLE
「ジュニア算数オリンピック」で金メダリストの母、和田聖子さん講演[前編]
2018年1月28日(日)開催の『ダヴィンチ☆マスターズ』では、保護者向けの講演会も行なわれました。ご登壇くださったのは、中学3年生と小学5年生の男児の母である、自称“算数が苦手なフツーのパート主婦”、和田聖子さん。でももちろん、和田さんは“フツーの算数が苦手な母”ではありません。自身が理数系が大の苦手だったことから、わが子には算数を好きになってもらいたいと独自の算数教育を編み出し、長男が赤ちゃんのころから実践。その長男(当時小5)は、約1,440人が参加した2013年の「ジュニア算数オリンピック」で金メダルを受賞しているのです。
和田さんの著書『「算数が得意な子」にするために親ができること』(ぱる出版)でも、どのように子どもを算数好きにいざなったのかが詳しく書かれていますが、今回の講演では“算数が苦手な母”が、普段の生活でどのような工夫をしていったのか、また「ジュニア算数オリンピック」はどんなものなのかについてお話しいただきました。
ここではその講演の内容、そして「今日からできる、5つのこと」を和田さんにお話しいただきました。前編では講演の内容を中心にお届けします。
予選で負けちゃうともったいないから、決勝までは残ってね
わが家の長男は2013年、「ジュニア算数オリンピック」で金メダルを獲りました。小学5年生の時のことです。
「算数オリンピック」は、1992年以降毎年1回開かれている、全国の小学生が数学的思考力を競う大会です。60~120分の制限時間内で、数学的発想力や思考力を競います。小学生ならだれでも参加できますが、主に小学6年生を対象としています。
この算数オリンピック、今では
- 小学4、5年生を主対象にした「ジュニア算数オリンピック」
- 主に中学3年生対象の数学大会「広中杯」
- 中学1、2年生対象の「ジュニア広中杯」
- 小学1~3年生を対象とした「キッズBEE」
と合計5種目が開催されるようになり、毎年多くの小中学生がこの算数オリンピックに挑戦しています。
それぞれの大会に「トライアル(地方)大会」「ファイナル(決勝)大会」「表彰式」があり、トライアルは国内外200会場で実施されているという、国際的な大会になっています。参加者数は国内だけでも約4,000人!
費用はトライアル参加費が4,860円(2018年2月現在/税込)で、ファイナルで追加料金は発生しません。トライアルからファイナルに進めるのは10%程度という狭き門なのですが、長男が参加するとき、「予選で負けちゃうともったいないから、決勝までは残ってね」と話していました(笑)。
母も子も、特別ではないけど金メダル?
「ジュニア算数オリンピック」で金メダルを獲得した子どもの母親というと、「理数系が得意なのでは」、あるいは「優秀なのではないか」と思ってくださる方も多いようですが、私自身は小・中・高校までとにかく算数が苦手で、高校卒業後は憧れていたホテルに就職し、そこで数字の弱さに苦労する日々を送りました。だからこそ、子どもたちには算数好きになってもらいたいと考えたのです。
また、「子どもの地頭が良かったから獲れたのでは」とおっしゃっていただくこともありますが、必ずしもそうした兆候はなく…。例えば幼稚園では長男と同じクラスのお子さんが年少さんで新幹線の名前をたくさん言えたり、ウルトラマンの識別がとてもよくできていたりする中、わが子も新幹線やウルトラマンにそれなりに興味はあったのですが、違いについてはほぼ分かっていない状態。ウルトラマンの微妙な造形の違いで区別がつくのは、図形感覚や立体感覚が優れているからだと私は思っていたのですが、うちの子はそれができていなかったんです。
そんなこともあって、母も子も、特別地頭がいいと感じたことはありませんでした。
生活上で数字に関わるもの全てを算数に関連させていった
人と違ったことがあるとしたら、やはり算数好きにするための“努力”をしたこと。暇さえあれば、生活上で数字に関わるもの全てを算数に関連させるようにしていました。
例えば小学生の頃は、小さなお菓子の入った同じサイズの箱を何個か用意して、まずはその1つの箱の幅は何センチかを、「この幅は何センチかな? 当てた人が、中に入っているお菓子を食べようよ」などと、クイズ形式で聞くといったことをしていました。5箱あったら何センチになるかな、とどんどん応用問題を出す。しかもこれを子どもにだけ答えさせるのではなく、私もクイズ形式で参加するんです。ただ、私は外れても食べちゃうんですけどね(笑)。
子どもって、テレビも観たいしゲームもしたいし、もちろん遊びにも行きたいから、1日の中で時間を見つけるのがなかなか大変ですよね。だから、おやつの時間を数字や立体感覚を身に付ける時間にしていたんですね。ご褒美のおやつ付きなので、子どもも食いつきがよかったです。
算数が好きになっていくと、子ども自ら問題を考えるようになっていきます。例えば長男は小学1年生の頃には、「この部屋にはサンドバッグがいくつ入るでしょう?」という答えが出ないような問題を私に出すようになりました。そんなふうに子ども側から問いかけてくれたときには、家事で忙しくても、一生懸命考えているフリをすることが大事です。
褒めてばかりはいられないけど、叱ってばかりはよくない
やる気を維持するためには、褒めることは重要です。
例えばわが子が簡単な計算ミスをしたとき。何度も同じ間違いを繰り返すとき。もしかしたら「どうして間違えたのか」と、とがめたくなるときがあるかもしれません。
ところが私の場合、算数ができなくても叱れなかったんです。もちろん、「手を洗いなさい」「姿勢をちゃんとしなさい」「鉛筆は削ったの?」などと「ちゃんとやって」を1日中言っているくらい、生活面では注意することも多いのですが、算数だけは自分が分からなかったので、問題を出しっぱなしにして、褒める一方。子どもたちは物心つくころには「お母さんより自分のほうが数字が得意」と思うようになっていたくらいです(笑)。でもこれが功を奏したと思っています。
ピアノはつい口が出てしまって続かなかったし、ニンテンドーDSを幼稚園の時にプレゼントしたところ、夫が「下手だなぁ! なにやってるんだ!」「そんなゲームもできなくてどうするんだ!」と怒っていたら、子どもはゲームを嫌いになってしまいましたから。
算数も社会も理科も、楽しみながら、好きになる
ですから、私がご提案したいのは、「すごいね、すごいね」と褒めること。私の場合は本当にすごいと思っていたこともありますが、もし、親御さんが理数系が得意でしたら、お子さんが好きになるまでは生活のいろんなシーンで数字など算数に親しめるようにクイズ形式で楽しませてあげて、好きになってきたなと思ったら「お母さんに教えてね」というスタンスを取るといいのではないでしょうか。
楽しませてあげるということは、様々な勉強で重要だと感じています。長男の場合、小学生になると戦国武将好きにもなったので、織田信長と徳川家康を好きになったタイミングで全国のお城巡りをするようになりました。お城巡りでは解説してくださるボランティアの方を必ずお願いするようにしていたのですが、子どもがいろいろ知っていることを答えると、ボランティアの方がとてもほめてくださるんですね。子どもはそれが快感になって、社会にも興味を持ってくれました。
また、理科については高尾山や葛西臨海公園などの自然観察会や、星空観察会に参加していました。実体験で楽しみを見つけて、好きになって行ってもらうようにしていましたね。
勉強を勉強と思わせないほうが、長続きしますし好きになりやすいのだと思います。
──後編「子どもを算数好きにする、今日からできる5つのこと」に続きます。
■ 2018年1月28日(日)開催の『ダヴィンチ☆マスターズ』の様子はこちら
プロフィール
和田 聖子
東京都の下町生まれ。2018年2月現在、中学3年生と小学5年生の男子の母。東京都立忍岡高校卒業後、帝国ホテルに勤務し、レストラン配属からはじめ、婚礼営業に携わる。
自身が理数系が大の苦手だったことから、わが子には算数を好きになってもらいたいと赤ちゃん時代から独自の算数教育をし、2013年、長男(当時小5)がジュニア算数オリンピック金メダルを受賞。著書に『「算数が得意な子」にするために親ができること』(ぱる出版)がある。