【インタビュー】「いい学校ってどんな学校?」京華女子中学・高等学校の塩谷耕校長先生が語る!ARTICLE
2023年8月の3日間、約2500人が参加して、非認知能力を育むイベント「夏休み 探求フェスタ2023」(主催・ダヴィンチマスターズ、後援・文部科学省ほか)が行われました。このイベントに賛同し、会場を提供したのが、京華女子中学・高等学校(東京都文京区)。学校長の塩谷耕先生が行った保護者向けの講演会は大好評で、「もっとお話を聞きたい」という声が寄せられました。そこでダヴィンチマスターズは、改めて塩谷先生に、これからの学校教育について、お話を伺いました。
「根本は生徒たちに興味を持ってもらうこと」
ダヴィンチマスターズのインタビューに答えた京華女子中学・高等学校の塩谷耕校長先生(写真は正門前)。
ダヴィンチマスターズ(以下DM):先日の「夏休み 探求フェスタ2023」では、会場のご提供、さらには講演までしていただき、本当にありがとうございました。
塩谷先生:講演では非認知能力と認知能力、どちらも重要、バランスが大切ですよ、ということを話したんですけど、今回はもう少し簡単に、「いい学校ってどんな学校?」ということを私なりに定義してみようかなと考えて、まとめてみました。
DM:資料まで作っていただき、ありがとうございます!
塩谷先生:1つ目の条件は「知的好奇心を高めてくれる」ということ。特に私立だと、進学実績や偏差値を前面に出している学校がけっこう多くて、保護者や受験生もそれで選んでいる人も多いんですけど、でも「いい学校」ってそれだけじゃないだろう、と思うんです。昔は「学校で受験勉強を強制してくれたので助かりました」という保護者もいましたけど、最近は「好奇心を高めてくれる」「やる気にさせてくれる」ということが求められていると思います。「先生に教わったら、こんなに夢中になりました」「先生の理科の授業のおかげで、私の娘は理科が大好きになりました」という学習の動機付けが大事なんですね。子供たちも、興味さえ持てば頑張りますから。
DM:たしかに大人でも興味がないことを続けるのは大変です。
塩谷先生:京華女子では話し合いやペアワークなどで生徒たちの理解を深めながら、出てきた疑問に対して、先生がどんどん問いを投げかけていく双方向の授業、生徒たちがやる気になり、もっと知りたいなと思えるようなアクティブな授業を、あえてやっているんですね。ただ知識を詰め込んで「ここをテストで出すから全部暗記しなさい」っていう授業ではないので、その分、進度は速くないんですけど。なるべく、「なんでこれを勉強しなくちゃいけないのか」「これを勉強するとこんなことがわかるよ」というような授業を行うようにしています。
ただ、高校になるとどうしても理解するためには知らないといけない知識も出てきます。たとえば古典に興味を持ったとしても、古典文法をちゃんとわかっていないと読めませんからね。ですから、先生も面白おかしく興味を持たせながら、その中でも「これだけはちゃんと覚えてね」という知識・技能もきちんと教えています。
根本はやっぱり「興味を持ってもらう」というのがすごく大事だと思うんですよね。授業では生徒たちの笑い声が聞こえる。生徒たちがその教科を好きになって、自分からどんどん勉強するようになる。これがやっぱり本来の学力を高めていくスタイルだと思います。
「人としての力を伸ばす教育を重視している」
アドベンチャーキャンプをはじめ、「非認知能力を高める」ことを目的として数々の行事・イベントを行っている。
DM:「いい学校」の2つ目の条件は「人としての力(非認知能力)を伸ばしてくれる」とあります。
塩谷先生:非認知能力については、今まで学校教育の中ではあまり注目されていなかったかもしれませんが、京華女子では以前から重視していました。特に学校行事は、非認知能力を伸ばす重要なイベントですから、「この行事はこういう目的があってやっているんだよ」ということを明確にしてきました。
京華女子では1つの行事をやるにしても、「協力する」ということの大切さをとにかく体感させるようにしています。たとえば高校1年で行う「アドベンチャーキャンプ」では、徹底的に協力することを学びます。
群馬県みなかみ町で2泊3日で行うんですけど、初日は全員で協力しないと達成できないゲームをやる。ビー玉を竹筒に転がして次の人につなぐ、という単純なゲームにしても、次の人が受けやすいように、ということを考えないとできないんですね。みんなで「もっとこうした方がいいんじゃない?」と話し合いながら進めていきます。2日目の午前中はオリエンテーリング。グループで協力しながら、地図とコンパス(方位磁針)を持って大自然の中の野山を走り回って、50個ぐらいのミッションをクリアするんです。
ゲームなので楽しみながら、でもなおかつ、みんなの意見を聞いて、自分の意見を言ってという、基本的なことができるように、という意味があります。
DM:楽しむだけではなく、しっかり他人と意見交換して、コミュニケーション能力を養う訓練をするわけですね。
塩谷先生:そうですね。高1で入学したばかりなので、ここでの活動によってたくさん友達もできます。さらに2日目の午後には、田植えをして、冷たい水の中に足を突っ込んで働くことで、「みんなこんな思いをしてお米を作ってくれているんだ」と農家の方に共感できるようになりますし、隣の子が大変な時には手伝ってあげたり、お互いに協力したりすることで作業も上手になっていきます。そして、最終日の3日目は、みんなでゴムボートに乗って、利根川の激流を下るラフティングに挑戦します。このように、綿密に練られた3日間で、協力することの楽しさ、素晴らしさ、大切さを知ってもらうプログラムになっています。
他にも中学の時にはボランティアをしたり、手話や点訳を学んだり、人として大切なことを学ぶ様々な仕掛けを用意することで、共感力を育て、みんなで協力する力を伸ばしていくことができると考えています。
DM:そのような行事や仕掛けは実際に生徒たちの力になっていると実感していますか。
塩谷先生:日々実感していますね。たとえば授業中、おとなしくてみんなの前で話せない子がいても、周りの子が「ゆっくりでいいからね」とか「小さい声でも大丈夫だよ」とか声がけしてくれるんですよ。転校生が入ってきても、一緒に帰ろうと声がけをしてくれる。そんなとき、共感力が育っているな、協力することができるようになっているな、とは感じますね。
その辺の具体例を話し出したらキリがないんですけど、本校では、そういう人としての力を伸ばすような教育をかなり重視して行っています。それがこれからの時代、学校としてますます望まれていく1つの要素になっていくと思いますね。
「自分が幸せになると、周りも幸せにしたくなる」
子どもが笑顔で過ごすことができる学校こそがいい学校ではないだろうか。
DM:いい学校の3つ目の条件は「子どもが学校の中で幸せを実感できている」ですね。
塩谷先生:子どもが笑顔で学校に行って、笑顔で帰ってくるという「幸せを実感できている学校生活」こそが、いい学校のすごく大きな要素だと思います。それがないと学校に行かなくなっちゃう。やっぱり学校は子どもたちにとって、本当に行きたい場所であって、自分の居場所があって、幸せを感じる、そういう所であってほしいなと。
自分が幸せになると、周りも幸せにしようという心の余裕が出てくる。それがどんどん広がっていけば、じゃあ次は自分の地域の人を幸せにしようとか、世の中をもっと良くしてみんなを幸せにしたいなって思うようになってくるはずなんですよね。
今、世の中にはすごく頑張っている若い子たちがたくさんいるけども、中には未来にあまり希望を感じていないっていう子もけっこういるので、そういうことも考えられるようになればいいな、と思いますね。
DM:素晴らしい考え方ですね! 私たちも同じことを考えています。
塩谷先生:最終的に親が望むことって、子どもが自立して、自分の足で前に進んでいけること。誰もがそう思っているのではないでしょうか。ちょっと収入が少なくても、好きなことをやって、幸せでいてくれればいい。
自立できていなくて、いつまでも自分の未来がわからないとか、仕事をしているけどいつも辛そうだとかいうよりは、自分のやりたいことを一生懸命やって、自立して歩んでいってくれれば、それが一番。親が我が子に望むこととして、それは皆、共通しているんですよね。
ですから、学校の使命としては、ここに挙げた3つを実践していかなきゃいけないな、と思っています。
先生が生徒に寄り添い、サポート
身振り手振りを交えて、熱くインタビューに答える塩谷先生。
DM:とても納得して共感できます。ただその一方で、学校としては「認知能力」、いわゆる学力テストでいい点数を取るための指導も求められるのではないでしょうか。
塩谷先生:そうなんです。大学入試もありますからね。だから、なんだかんだ言って、昭和の考え方も取り入れています(笑)。そう簡単に、「知的好奇心を持ったから、私、明日から毎日3時間勉強します」とはいかないんですね。生徒がやる気になった時に、先生が寄り添って、付き合って、サポートしなければいけない。
その辺りは多少レールというか、生徒が軌道に乗りやすいような仕掛けも並行して作っていかないと、難しいんですよ。ですので、昭和型の夏期講習、冬期講習、放課後講習、勉強合宿みたいなのも全部やっています。これはそれによって詰め込むわけじゃなくて、あくまでも生徒のサポート。僕は「放課後講習だけで成績を伸ばそうとするんじゃない」ってよく先生たちに言うんです。週に1回の放課後の講習で数字が伸びるわけじゃなくて、生徒たちの学習習慣を定着させ、本当にわかっているかどうかを確認する、ペースメーカーとしての放課後講習なんです。
DM:寄り添うという点では、「京華は先生と生徒の距離が近い、家族みたい」という卒業生の声も多いようですね。
塩谷先生:本当に生徒がよく先生に相談に来ますよね。たとえば試験の後に生徒が職員室に質問に来るんですけど、先生たちに「“密”になるから、各教室に分かれて対応してください」って言ったことがあるほどです(笑)。本当に人が通れなくなるぐらい、生徒たちが集まってきちゃう。
先生たちにとっても、職員室にそうやってたくさんの生徒たちが来るのを見ることによって、他の先生の対応を見て共有していく、というメリットもあると思いますね。
先生は生徒たちの相談に乗って、「なんとかしなきゃ」と動く。面倒見がいい学校だと言われますが、結局、そういう寄り添う、伴走するって、生徒への愛情がないとできません。「この子には卒業までに学力も向上して、人としても成長して、笑顔で卒業していってほしい」というその願いでやっているんです。
「大人にこそ、新しい挑戦をしてほしい」
昭和8年に建てられた築90年の校舎は、長い伝統を物語る。来年度(2024年度)からは新校舎に移転する。
DM:お話を伺っていると、本当に親身になってくれる学校なんだなと感じます。
塩谷先生:ただ、これは少人数だからできるのであって、大規模校では絶対にできないと思うんですよ。
京華女子は中学が原則30人前後の2クラス、高校が30人台の4クラスの小さい学校なので、なんとか面倒が見られているんですね。他校みたいに1学年300人、400人だと難しいんじゃないかなって思います。
もう1つ、私立だからずっと先生がいるっていうのも良さではないかと思いますね。先生の異動があると、最後まで生徒にしっかり付き合って面倒を見るっていうことはできませんからね。
DM:最後に、校長先生から、子どもたちにメッセージや伝えたいことはありますか?
塩谷先生:子どもたちへ、と同時に、むしろ保護者の方々にこそ言いたいんですけど、「新しいことに挑戦してほしい!」ということです。たとえば、子どもたちには、海外に行って視野を広げてほしいと思いますね。海外に行って2週間位でも全く違う環境で過ごすと、子どもたちは想像以上に成長します。
そしてこれは保護者の方に言いたいことなんですけど、大人になると、同じ場所にずっといるわけですよね。でも、いつも一緒にいる友達や同僚と話しても、新たな発見や気づきってほとんどないんですよね。
人はどういうときに成長するのかっていうと、自分がまったく知らないコミュニティに飛び込んだ時だと思うんですよ。新たな場所では、壁にぶつかるかもしれないけれど、新しい発見がたくさんありますよね。たとえば習い事をするとか、新しい仕事に挑戦するとか。積極的に何かに挑戦をする。成功しなくてもいい。大人になっても、失敗覚悟で何かしらに挑戦してほしい、未知の世界に飛び込んでもらいたい、そう思いますね。
DM:たしかに保護者がそういう姿を見せたら、子どもたちも「あ、この年齢でチャレンジするなら、私もやってみよう」ってなりますもんね。
塩谷先生:僕も毎年、何かしら新しいことに挑戦しています。数年前にはセブ島語学研修に2週間行ってきました。理系で英語は苦手なので苦労しましたが新たな発見がたくさんありましたよ。去年は学校で公式のインスタとTikTokを始めたんですよ(笑)。私はインスタの担当なんですが昨日はネタがなくて休んじゃいましたけどね(笑)。
新しいといえば、来年4月からは男子中高、商業高校も含めて、京華学園の3校が1つのキャンパスになります。校舎は別々ですが、共有の校舎や三校合同の部活もあって、女子だけでいたい人も、男女一緒に過ごしたい人も、生徒が選べるようになります。だから今年のパンフレットには、女子校なのに男子も載っているんです(笑)。
DM:ますます楽しい学校になりそうですね。このたびは貴重なお話をいろいろ聞かせていただき、ありがとうございました!
プロフィール
塩谷耕(しおや・こう)
1984年の大学卒業から32年間、京華中学・高等学校(男子校)で教壇に立つ。
2010年、48歳の若さで同校の校長に就任。
2017年、京華女子中学・高等学校の校長に就任。
学校の沿革
1897年、京華尋常中学校が開校(現京華中学・高等学校)
1901年、京華商業学校が開校(現京華商業高等学校)
1909年、京華高等女学校が開校(現京華女子中学・高等学校)
1933年、京華高等女学校新築落成(現校舎)
2022年、京華学園創立125周年
2024年、女子校新校舎移転で3校ワンキャンパスに
男子校の京華中学・高等学校は中高一貫教育で「面倒見の良い学校」首都圏No.1
(サンデー毎日、首都圏オススメ私立中学ランキングより)
京華中学・高等学校
2024年4月に京華女子中高が新校舎に移転し、京華中高(男子)、京華商業高(共学)の3校が1つのキャンパスに集結する。
明治30年(1897年)に京華尋常中学校を創立した学校法人京華学園は、昨年(2022年)11月1日、創立125周年を迎えた。現在は学園三校である男子中高、女子中高、商業高の中で、女子中高の校舎だけ離れているが、2024年4月からは1つのキャンパスになる(校舎は別)。その中で、最も伝統がある京華中学・高等学校は、建学の精神「天下の英才を得て之を教育す」のもと、「生徒一人ひとりの秘められた才能を引き出し、磨いていくこと」を教育の根本として掲げている。また、校訓となっている「Never Die(決してあきらめない)」の精神は、125年以上におよぶ独自の男子教育の中で脈々と受け継がれている。3校が1つのキャンパスのなることでその魅力がさらに際立ち、3校がそれぞれの個性を磨き合う中で、男子中高にも新たな魅力が創出されるだろう。