親子で楽しむ! ダヴィンチマスターズ 新連載スタート! 「いきもの博士の研究室」ARTICLE

「身近ないきもの コガネムシのナゾを解く! 」全4編

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

ダヴィンチマスターズ「いきもの博士の研究室」

 「身近ないきもの コガネムシのナゾを解く! 」(PART1~4 ※全4編)

PART1 「その白い幼虫、本当にカブトムシ!?  」

昨夏、庭でアサガオを育てたダヴィンチ君。種をとった後、そのままになっていた
植木鉢をひっくりかえしてみると、土から白い幼虫が出てきました。
これってもしかして、カブトムシ!?

ダヴィンチ君「こんにちは博士!」
いきもの博士「こんにちはダヴィンチ君。今日はどんな生き物に出会ったのかな?」

「見てよこれ、アサガオの鉢をひっくり返したらいっぱい出てきたんだ。
それで、友達に見せたらこれは土を食べるカブトムシの幼虫だって言うんだ。
育てたら、本当にカブトムシが産まれるかな? 」

「うーん、確かにこれは土の中で暮らす幼虫だね。でも、カブトムシではないな」

「えっ!?」
「これはね、アオドウガネっていうコガネムシの幼虫だよ」

「コガネムシって、カナブンのことだよね? なんだ、その辺にいっぱいいる奴じゃん、
つまんないなー」
「いやいやダヴィンチ君、カナブンとコガネムシは全然違う生き物だよ。それに、
それぞれに個性があるから、調べてみたら面白いと思うけどな」

「そうかなー。じゃあ、カナブンはもう見飽きているから、コガネムシのことが
知りたいな」
「ふふふ、君が見てきたカナブンは、本当にカナブンかな? まずはダヴィンチ君が
見つけてきたアオドウガネの写真があるから見てみよう」


(画像)コガネムシ科スジコガネ亜科アオドウガネ。
日本で最もよく見られるコガネムシの一種。同じ科にヤマトアオドウガネがいる。

「あれ? 」

「どうかね?  」

「これってカナブンじゃないの? みんながカナブンって呼んでいるのはこの虫のことだよ」
「確かに、アオドウガネはカナブンと呼ばれがちだよ。でも、カナブンという名前の
虫はちゃんと別にいるのさ。それがこれ」


(画像)コガネムシ科ハナムグリ亜科カナブン。日本にはこのほかにアオカナブン、
クロカナブンなど約5種類のカナブンが生息する。

「結構似ているけど、色が違うね」
「カナブンの色は個体によってさまざまだから、アオドウガネそっくりの色のカナブンも
いるよ。見分けるには、頭の形を見るといいよ」

「うーんと……カナブンの方は長方形だけど、アオドウガネの方は少し丸いね」
博士「そうだね。他にも小楯板(しょうじゅんばん)という羽の付け根の三角形の部分の
形が違ったりするよ」

「ほんとだ! 」

博士「そもそもこの二種類は住んでいる場所も違うんだ」

「そうなの? えっと、今までカナブンだと思っていたアオドウガネは公園なんかでも
よく見るんだけど、カナブンの方はどこにいるの?」
「カナブンがいるのはクヌギやコナラが生えた雑木林。昼間に樹液を飲むんだ。
アオドウガネの成虫は植物の葉を食べる。アオドウガネは公園にもいっぱい生えている
サクラなんかの広葉樹が大好物だから、その辺でもよく見られるんだ」

「そうなんだ。じゃあさ、なんでわざわざ 僕の庭の植木鉢なんかに飛んできたのかな。
うちにはサクラなんか生えてないし、公園の方が広いんだから、そっちで暮らせば
いいんじゃないの?」
「確かにアオドウガネの成虫はアサガオを食べないし、公園にずっといた方がいいかもね。
でも、全てのアオドウガネが公園で暮らしていたら、公園に除草剤がまかれた、
なんてことになったら全滅しちゃうよね」

「うーん」

「住めそうな所なら少しでも、住んでおく。そうして、アオドウガネは日本中に
広がっていったのさ」

「すごいね」

「でも、アオドウガネがどんどん増えていくと違う問題も出てくるんだよ」

「えっどういうこと? 」

「もともといた他の生き物の食べ物を奪ってしまったり、人間の植えた植物も食べ尽く
されてしまうことがあるんだ。例えば、関東にはもともとドウガネブイブイという
アオドウガネと同じく植物の葉を食べる茶色のコガネムシがいたんだけど、
近年では平地でだいぶ数を減らしてしまったんだ。」

「いなくなった虫は、みんなどこに行ってしまったの? 」
「ドウガネブイブイは、今も低山地帯に行けばいっぱい見られるよ。でも、より食べ物が
あって暮らしやすい平地で数を増やせないから、将来絶滅危惧種に指定される可能性が
あがっているんだよ」

「そっかー。じゃあ、この幼虫は育てない方がいいのかな? 」
「いや、そうでもない! アオドウガネは確かに増えすぎているということもあるけれど、
最近は都市の開発や道路のアスファルト化が進んで、虫全体が数を減らしているんだ。
将来、アオドウガネも絶滅危惧種の立場になるかもしれない。
そんなとき、君の飼育経験や知識が活きてくる」

「そうだね! 」
「それに成虫も飼育してあげるといいよ。羽化したばかりのアオドウガネはこんな風に、
青い目をしているんだ。これは外で暮らすうちに目が擦れて色褪せちゃうから、
自分で育てないと見ることはできない。貴重な経験だよ!」


(画像)まだ目が青い、羽化から3日後のアオドウガネ。博士が庭で採集した幼虫を
飼育したもの。

「わあ、これはキレイだ! 本物を見たいけど、ちゃんと育つかなあ」
「大丈夫、アオドウガネの幼虫がなんで土の中で暮らすのか、しっかり理解すれば
育てるのは簡単だよ」

「土を食べると思うんだけど、アサガオの土を買ってくればいいのかな? 」
「ふふふ、実はアオドウガネの幼虫は土そのものを食べるわけじゃないんだよ」

「そうなの? 」

「次は、アオドウガネが土の中で何を食べているのか教えてあげよう!」

PART2 「身近なコガネムシ、アオドウガネを飼育してみよう! 」

アオドウガネの幼虫を育てることになったダヴィンチ君。
いきもの博士は、土の中にいる理由を理解すれば飼育は簡単だと言います。
彼らは土の中で、何を食べ、どんな生活をしているのでしょうか?

ダヴィンチ君「アオドウガネの幼虫は、土を食べるんじゃないの?」

いきもの博士「確かに、アオドウガネは土の中に卵を産むし、幼虫もそこで暮らす。だから、土を食べると考えてもおかしくないね。けれども、彼らは土そのものを食べているわけじゃないんだ。土の中にしかない、あるものを食べているよ」

「土の中にしかないもの?」
「アサガオにもサクラにもあるけれど、土の中にしかないものはなんだと思う?」

「根っこかな?」
「そう、植物の根で正解だよ。彼らは植物の根を食べる。だから、根切り虫と呼ばれることもあるよ」

「そうなんだ。じゃあ、ただ土の中で飼育するだけじゃだめで、アサガオの育った後の土じゃないとダメなんだね」
「そうだね。それと、彼らはアサガオが枯れていてもいいんだ。だから、アオドウガネたちが出てきた土にそのまま埋めておくだけで、簡単に育つんだ」


(画像)アオドウガネの幼虫

「確かに楽だね」
「ただし、ひとつ気をつけなきゃいけない事がある。それは、蛹(さなぎ)になるときにアオドウガネは繭玉(まゆだま)を作るってこと」

「繭玉?」
「カイコというガを知っているかな?」

「ああ、聞いたことある!絹糸がとれるんだよね」
「そう、カイコが作る繭玉は絹糸になる。でも、アオドウガネは蛹になるための部屋、蛹室(ようしつ)として、繭玉をつくるんだ」

「なんでわざわざ部屋を作るの?」
「これを作る一番の理由は、外敵から身を守るため。他には蛹を乾燥から守ったりする役割もあるよ」

「そうなんだ。それで、アオドウガネも同じものを作るの?まさか絹糸じゃないよね」
「アオドウガネは糸をはけないから、代わりに周りにあるもので繭を作る。土の中で暮らすアオドウガネの周りに一番あるものといえば、やっぱり土。
アオドウガネは土を固めた繭を作るよ。だからそのぶんの土と、スペースが確保できるように、植木鉢から他のケースに何匹か移して別々に飼うようにすると、うまく羽化するよ」

「なるほど。もし土や広さが足りなくてうまく繭玉が作れないとどうなっちゃうの?」
「その時は、土の上で無理やり蛹になるんだけど、乾燥で死んじゃうことが多いな。中には、繭玉なしでも運よく成虫になることもあるかもしれないけど、成虫になった直後は蛹の時と同じように弱いから、結局は死んでしまうことが多い。羽化直後のアオドウガネは、こんな風に白い羽をしているんだ」


(画像)羽化から数時間のアオドウガネ

「うわあ、きれいだね! ここから緑色になっていくの? 」
「そうだよ。蛹から出てきたばかりの時は、羽はまだすごく柔らかくて、しわしわに折りたたまれているんだ。そこから体液を羽に通わせて、しっかりお腹を守れるように羽を伸ばし切った後に固めるんだよ。固まる途中で、段々と白から緑に変わっていくよ」

「アオドウガネの羽はけっこうかたいけど、このときはどのくらいなの?」
「何かが少しでも触れると、変形して元に戻らなくなっちゃうくらいに柔らかい。体液を通す管もすぐに壊れちゃうから、ちょっとの刺激が命取りなんだ。
羽が変形した個体は羽化不全と言って、病気にとても弱くなってしまうんだ。アオドウガネにとって、繭玉は本当に重要なものなのさ」

「そうだったんだ。じゃあ、アサガオの育った後の土を使うことと、羽化不全にならないように繭玉が作れる分の土と広さを確保してあげることが大切なんだね」
「そうだね。そこさえできれば、綺麗な青い目のアオドウガネが見られるよ」


(画像)PART1より、羽化したばかりの青い目をしたアオドウガネ

「よし、友達の庭にもいるかもしれないから教えてあげようっと」
「アオドウガネは公園の植物の下でもよく暮らしているから、ダヴィンチ君の話を聞いて飼いたくなった人がいたら探してみるといいかもね」

「確かに。このアオドウガネがどこから僕の庭の植木鉢に来たかわかるかもしれないしね」
「なかなかいい考えだね!それがわかったら、夏にアオドウガネの行動を辿ってみるのも面白そうだね」

「身近な虫でも意外と奥が深いなあ。ところで博士、なんでアオドウガネは緑色をしているの?わざわざ目立つ色をしている意味があるのかな?」
「良い質問だね、ダヴィンチ君。確かに、緑色は目立つよね。でも、この緑色は、もともとは目立たないための色と言われているんだよ。」

「どういうこと?」

「次はアオドウガネがなぜ緑色をしているのか、教えてあげよう!」

PART3 「アオドウガネは、なぜ緑色?」

アオドウガネは、漢字で書くと青銅鉦。青も銅鉦も、その色から来ています。アオドウガネなどのコガネムシ科の昆虫は、なぜ目立つ色をしているのでしょうか?

ダヴィンチ君「アオドウガネって名前もそうだけどさ、やっぱり人間には目立つよね。窓とかにくっついていたら一発でわかるもん。これじゃあ、鳥なんかにもすぐに食べられちゃうんじゃないの?」

いきもの博士「確かに、人工物の上だとすぐに見つかっちゃうよね。でも、アオドウガネが町中にいるのは、少しでも住める場所を探すため。本来、暮らしている場所は食べ物がいっぱいある場所。どこか分かるかな?」

「えっと、アオドウガネはコガネムシで、葉を食べるから……木の上とか?」
「そう、正解だよ。アオドウガネは、普段は木の上の葉にとまっているんだ。アオドウガネの緑色は広葉樹の新鮮な葉の色に近いから、鳥にはなかなか見つからないよ」

「そうか、人のいるところでは目立つけど、自然の中ではそうでもないんだね」
「環境に合わせた色をして身を隠すことを保護色というよ。保護色を持つ生き物はバッタとか、カマキリとか色々いるけれど、アオドウガネなどコガネムシの仲間の保護色は少し変わっているんだ。アオドウガネは緑色だけど、バッタやカマキリの緑とはちょっと違うよね」

「確かに、バッタやカマキリの緑は本当に草って感じだけど、アオドウガネは少しキラキラしているね。これこそ、目立っちゃうんじゃない?」
「そう、そこなんだ。ダヴィンチ君の言う通り、草そのものの色とは違って、アオドウガネの体には光沢がある。これも確かに目立つよね。でも、これもまた、鳥の目から逃れるしくみになっているんだよ」

「どういうこと?」

「アオドウガネは食べる葉を変えたり、町中まで産卵場所を探しに行ったりと、よく飛ぶけど、鳥は飛んでいる虫をキャッチして食べたりもするから結構危ないんだ。でもキラキラしていると、鳥の目からは、太陽の光がキラキラに反射して、見えにくくなるみたいなんだ。光が当たる角度と、見る角度が変わると、キラキラの具合が変わってくる。こうなると、鳥の目からはアオドウガネが現れたり、消えたりしているように見えて捕まえにくくなるんだ。」

「なるほど。確かに、角度によってはまったくキラキラしないもんね」
「見る角度によって変わる色のことを構造色というよ。アオドウガネだけじゃなくて、同じコガネムシの仲間のカナブンなんかも同じしくみの色をしているよ。だけど、コガネムシは、もっとも構造色を極めている虫なんだ」


(画像)コガネムシ科スジコガネ亜科コガネムシ。

 ダ「すごくキラキラだね!これはなんて言うコガネムシなの?」
「この虫こそ、まさに“コガネムシ”だよ。別名はナミコガネ。この虫もドウガネブイブイ(PART1「その白い幼虫、本当にカブトムシ!? 」参照)と同じように、アオドウガネの繁栄によって数を減らしているようだから、都市部ではなかなか見つからなくなったんだ」

「ここまで光っているとレアもの感があるよね」
「コガネムシは漢字で書くと黄金虫。昔の人もそんな風に思って、こう呼ぶようになったのかもね。ちなみに、写真のコガネムシはほぼ真緑だけど、なかには赤い色が入ったり、もっと黒っぽくなったりするコガネムシもいるよ。様々な色があるんだ」

「へえ、赤や黒もキレイだろうなー。でも、どうして色が変わるの?」
「色が変わる理由のひとつは突然変異。アオドウガネやコガネムシは葉の色に合わせて、基本的には緑色で生まれるけど、中には偶然、変わった色を持って生まれることもある。それが突然変異というんだ。それが産卵すると、生まれてくる子どもにもその変わった色が引き継がれることがあるんだ。もっとも、変わった色をしていると目立って鳥に食べられたりするから、なかなか増えないんだけどね」

「変わった色は特にレアなんだね」
「そうだね。でも、中には変わった色ばかりが見られる地域もあるよ。例えば、オオセンチコガネというコガネムシは、普通は紫色をしているんだけど、奈良公園に暮らす大センチコガネは、多くが水色や青色をしているよ。みんな血がつながっているから、同じような色になるんだ。こういう変わった色は、アオドウガネでも見られるんじゃないかなと思うよ。アオドウガネは他のコガネムシに比べれば色の変化は少ないけれど、少し赤っぽい個体も見たことあるからね。ダヴィンチ君も、ぜひ探してみてよ」

「うん、僕のまわりのアオドウガネがどんな色をしてるのか、じっくり観察したくなったよ!」
「いいね、まだまだ研究されていない、誰も知らないことを調べるのはワクワクするよね!さて、これまでスジコガネ亜科のアオドウガネについて話してきたから、最後にハナムグリ亜科についても教えてあげよう!コガネムシ、カナブン、ハナムグリが見分けられれば、君はいよいよコガネムシマスターだ。ハナムグリ亜科は、背面歩行っていうアオドウガネにはない、面白い行動をとるよ」

PART4 「ハナムグリ亜科の背面歩行ってなんだ? 」

これまでにコガネムシやカナブンについて学んだダヴィンチ君。博士は次に、ハナムグリ亜科の虫について教えてくれるようです。

 ダヴィンチ君「ハナムグリ亜科……えっと、そもそも亜科ってなに?」

いきもの博士「亜科っていうのは生物の分類の一つで、“属”と“科”の間に位置する分類だよ。分類についてはまた今度しっかり教えてあげるから、今はちょっと同じ仲間を表す言葉のことだと思っておいて」

「わかったよ。それで、ハナムグリ亜科の虫にはどんな仲間がいるの?」
「ハナムグリはもちろん、さっき見せたカナブン(PART1参照)もそうだよ」

「カナブンもそうなんだね。ハナムグリっていうのはどんな虫?」
「よくみるハナムグリに、シロテンハナムグリやアオハナムグリなんかがいるよ。彼らの成虫の一部は花粉を食べるんだけど、その時に花に頭を埋めるようにして食べるから、花もぐり、ハナムグリという名前がついたんだよ」


(画像)コガネムシ科ハナムグリ亜科シロテンハナムグリ(左)、同シラホシハナムグリ(右)。どちらもカナブンと同じく、樹液が主食。

「へえー。シロテンハナムグリは見たことあるかも。それで、ハナムグリの幼虫は何を食べるの?」
「腐葉土や朽木を食べるよ。朽木っていうのは、倒れた木が、雨水などによってほぐされて、朽ちて柔らかくなったものだよ」

「アオドウガネとは違うんだね。飼うのは難しそうだね」
「種類によっては簡単に飼えるけど、確かに難しい種類も多いよ。特にね、カナブンなんかは朽木を主に食べるんだけど、朽木が柔らかすぎても、固すぎてもだめっていうなかなかの食通なんだ。人工的に用意したエサだと気に入ってもらえないんだよ。

「へー」
「カナブンは雑木林に行けばたくさんいるから、人間が増やしてあげる必要はないかもね」

「そういうこともあるんだね。研究が進めば、いつか気に入ってくれるエサが作れるかな?」
「作れると思うよ。どんな朽木を気に入るのか、今も全てかっているわけじゃないからね」

「じゃあ、研究してみるのもいいね!」
「そうだね 」

「ほかにも特徴はあるの?」
「実は、幼虫に面白い特徴があるんだ。その名もズバリ、背面歩行!名前の通り、背中で歩くよ」

「えっ! 背中で歩く? 背中から足が生えているの? 」
「いや、彼らが使うのは足じゃなくて毛さ! 」


(画像)シラホシハナムグリの背面歩行。見えているのは腹(下)側。背中の毛を波打たせて進む。

「なにこれ!? なんでわざわざこんなことするの?というかそもそも、普通は土の上に出てこないから、こんな動き意味ないんじゃないの?」
「確かに.普段は土の上に出てこないけど、朽木の中に食べるところがなくなってしまったり、うっかり食い破ったりしてしまったときには、土の上に出てくるんだ。そんな時、土の上は外敵が多いから早く移動したいんだけど、彼らの足は短いうえに、6本しかなくて、それが全部前の方についているからズリズリとゆっくりとしか歩けないんだ。それで、この体を使ってもっと早く移動するために、この方法を考え出したんだ」

「なるほど。緊急用なんだね」
「そうだね。写真で背面歩行を見せているのは、博士の手から逃れようとしているからなんだけど、こうして敵に見つかった時には、背面歩行をしながら、少しずつ土の中に潜っていくよ。縦に潜っていくよりは、早く逃げられるからね。」

「なかなか器用だね」
「それにね、背面行動に使っているのは背中に生えている毛なんだけど、この毛にはもっと重要な役割があるんだ。それは、周りを知ること。暗い土の中では、目はほとんど役にたたないから、代わりに毛に着いた土の感触で行き止まりや水分のある場所を知るんだ。毛はレーダーとして、もともと細かく動くように発達しているんだ」

「なるほどね」
「ちなみに、ハナムグリ亜科のほとんどの種類は背面歩行ができるよ」

「色んなハナムグリやカナブンの背面歩行……比べてみるとまた違いがあるかもね」
「そうだね。さっき言ったようなエサの研究が進めば、飼いやすくなって、まだ見ぬハナムグリの背面歩行が見られると思うよ。ハナムグリ亜科の虫は日本だけでも40種類以上、世界には2500種類以上もいると言われているから、研究のしがいはあるだろうね。ちなみに、世界一重い昆虫と言われるゴライアスオオツノハナムグリ(アフリカ大陸に生息)の幼虫も、10cm以上ある体で背面歩行を行うよ」

「それは見てみたいな!僕にもゴライアス飼えるかな?」
「ゴライアスオオツノハナムグリの飼育はけっこう難しいから、まずはほかのハナムグリから挑戦してみるのがおすすめかな。いろいろな虫を飼育して研究してみることはとても良いことだよ。ただ、海外の虫は逃がさないようにくれぐれも注意してね。ハナムグリは植物を喰い荒らす可能性があるから、放虫(飼っていた昆虫を自然に放すこと)のなかでも、かなり危険な部類に入るからね」

「はーい。博士のおかげで、身近にいるコガネムシやカナブンのこと、だいぶ詳しくなれたよ。それに、ちょっと好きになった! もっと自分で調べてみるね!」
「いいね、その意気だよ! 自分で面白いと思える種類がいたら、じっくり調べてみる。それが博士になるための第一歩だからね!」

 「身近ないきもの コガネムシのナゾを解く! 」(終わり)

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