飯沼慶一先生と考える、子どもに必要な「体験」【後編】ARTICLE

学習院大学文学部教育学科教授 飯沼慶一先生インタビュー[後編]

2018年1月28日に開催された「第5回 ダヴィンチ☆マスターズ」で「犯罪科学捜査に挑戦!」という科学捜査によって犯人を見つけるコンテンツを提供してくださった学習院大学の飯沼慶一先生。小学校の教員を目指す学生を教える先生は、長年、小学校で教鞭をとられていました。そんな飯沼先生に、子どもに必要な「体験」について、お話を伺うインタビューの後編です。

「体験」が生み出す「共感力」「感性」

ダヴィンチ☆マスターズ編集(以下、──):
人は誰しも「センス・オブ・ワンダー」、つまり生まれながらにして神秘さや不思議さに目を見張る感性を持っていると、レイチェル・カーソンは著書の中で述べているとのことですが、では、親子でこうした感性を持ち続けるための「体験」をしたとして、どんな能力を身に付けることができるのでしょうか。

飯沼慶一先生(以下、飯沼):
文部科学省の調査によれば、自然体験をたくさんしている子どものほうが理科の成績がよいとか、集中力が高いという結果が出ていますが、それだけでなく課題解決能力や豊かな人間性など “生きる力” を育むともいわれています。自然体験は成績など学習面での単純な結果につながる能力というより、あらゆる能力の基礎になる体験であると考えられます。

──お話を伺うと、週末はどんどん外に出て何かをしなくてはと焦ります。

飯沼:小学校低学年の場合、まずは楽しい体験や成功体験が大切になります。デイヴィド・ソベルは著書『足もとの自然から始めよう』(訳書は日経BP社)の中で「エコフォビア」という子どもたちの心に刷り込まれた「自然恐怖症」を心配しています。これは、10歳未満で環境問題などの悲劇を子どもたちが突き付けられることで、子どもたちはその恐怖から環境のことを考えるのが嫌になってしまうということなのです。ソベルは「10歳までは悲劇なし!」と言っています。よくある数学嫌いも同じです。低学年の頃に無理やりやらされてなんでできないのと言われ、マス・フォビア(数学嫌い)になってしまう。

小学校低学年までの子どもに必要なのは、「もう少しやってみたい」と思える楽しい体験なのであって、恐怖心を植え付けてはいけないと思います。

──となると、「あぁ楽しかった」で終わってしまいそうですよね。知識化ができなさそうな…。

飯沼:そうですね。体験すればそれだけでよいというわけではないんですよ。体験だけで終わっていたら、基礎体験にはなりますが、先につながるかどうかはわかりません。そこからどうするかが大切になってきます。

前回お話ししたレイチェル・カーソンが言うように、そばにいる大人の存在が大切であるということです。これは、親や教師です。親や教師が、子どもと一緒に発見し感動を分かち合う存在になりながら、子どもの興味や探究心を広げていければ、より良いのではないでしょうか。

「ダヴィンチ☆マスターズ」の活用法は?

──「ダヴィンチ☆マスターズ」では、体験によって、共感力や感性を磨いてもらいたいと思っているのですが、イベントでこうしたものは育めるでしょうか。

飯沼:これは、家庭次第だと思います。イベントに預けっぱなしでよいと思われたら困ります。まずはどんなワークショップや体験学習でも、参加したら「どんなことがあって何が楽しかったか」を子どもからしっかり聞くこと。低学年の子どもは、はじめのうちはうまく説明することができないことも多いです。それでも説明する努力をすることによって、言語力や文章を組み立てる能力が育てられるでしょう。

そのあとは、「そうなんだ。おもしろそうだね。家でもやってみようか」と続けられれば、今度は子ども主導で体験したことの再現ができる。すると、親子で一緒に感動したり発見したりできますから、共感力につながっていきますよね。

──なるほど。子ども自身に説明してもらうこと、子どもを「先生」にすることで、子ども自身の身に付きやすくなりそうですし、親も学び直せそうですね。

飯沼:同じことをやるだけでなく、発展することをやってみるとか、家にあるものでできないかなとか、家庭内で話をして、子ども自身が本で調べたり、小さいうちは親子でパソコンで調べてみたりするのも効果的です。あるいは自然体験をしてきた子どもなら、次の週末は家族で自然の中に出かけ虫取りや自然観察に取り組んでみるということもいいでしょう。

親になるのは「体験」のチャンス!
イベントでの「体験」を子どもと一緒に家で再現

──今は、すぐにスマートフォンやパソコンに頼りすぎで、手軽に情報にアクセスできるので疑似体験で済ませてしまいがちな気がします。

飯沼:パソコンは使いようですよ。今や避けて通れないツールですから。単にゲームをするだけの道具にするのでなければ活用してしかるべきです。プログラミングだって、プログラムを組み立てるという思考をパソコンで学んでいるわけですし。

──極端に子どもから遠ざけると、かえってこっそり使うようになりそうですよね。最後に、体験下手に育ってしまった親世代にメッセージをいただけますか。

飯沼:ある意味、親になるということはチャンスなんです。体験をやり直せますから。虫が嫌いだというお母さんもお父さんも、今までしてこなかったものを、子どもと一緒にやり直すことができるチャンスが来たと考えて、楽しむようにしてみてください。そして、イベントに子どもを「預ける」のではなく、イベントでの「体験」を家に持ち帰って、子どもと一緒にぜひ、やってみてください。

■ 2018年1月28日(日)開催の『ダヴィンチ☆マスターズ』の様子はこちら

プロフィール

飯沼 慶一
学習院大学文学部教育学科教授。大阪生まれ。大阪教育大学大学院修士課程修了。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科博士後期課程単位取得退学。私立成城学園初等学校で小学校教員を23年務めた後、2013年度より学習院大学に着任。著書に「ワクワク!ドキドキ!おもしろ実験室」(共著、成城学園初等学校出版部2009)、「学校環境教育論」(共著、筑波書房2010)、「せいかつ上 みんななかよし」「せいかつ下 なかよしひろがれ」(生活科教科書・指導書、共著、教育出版2012)など。

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