親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE

「 春の女王バチは、人を刺している場合じゃない!? 」PART1

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

ダヴィンチマスターズ「いきもの博士の研究室」

 「春の女王バチは、人を刺している場合じゃない!? 」(PART1~4 ※全4編)

3月下旬。家の庭で、ダヴィンチ君は壁にとまっているアシナガバチの成虫を見つけました。

ダヴィンチ君「こんにちは、博士!」
いきもの博士「こんにちはダヴィンチ君。今日はどんな生き物と出会ったのかな?」

「今日はね、家の庭でハチを見つけたんだ。じっとしていて動かなかったけど、結構大きかったから、刺されたら、かなり痛いんじゃないかって思って、びくびくしながら家の中に戻ったよ」
「なるほど。ダヴィンチ君が見つけたのはこんなハチかい?」


(画像) セグロアシナガバチ。体長25mmほどの、やや大型のアシナガバチ。

「うん、ちょうどこんな感じのハチだよ! 一匹だけ壁にとまってじっとしていたんだ。一匹だけでいるのもなんか変だよね」
「そうだね。このセグロアシナガバチもそうだけど、基本的にアシナガバチは集団で行動する。でも、その集団はどうやってできると思う?」

「えっと、確か、女王バチが一匹いるんだよね。その女王バチが働きバチを産んで、次々増えていく。じゃあ、あのハチはまさか!」
「そう、ダヴィンチ君が見たのは女王バチだったのさ。まだ子どもを持たない、新女王と呼ばれる女王バチだよ。」

「女王バチって、巣の一番奥に隠れていて見られないものだと思っていたけど、ひょっとしてかなり珍しいものを見ちゃったのかな? ていうか、なんで女王バチだってわかるの? たまたまはぐれた働きバチかもしれなくない? 」
「いや、女王バチで間違いないね。実は、この時期に見られるアシナガバチはすべて女王バチなんだ。というのも、働きバチは越冬ができないんだ。みんな、秋の終わりには死んでしまう。女王バチだけが冬を越して、次の年に新しい巣を作るんだ」

「そうなんだ。じゃあ、あの女王バチはこれから巣を作るんだね。ということは、家の庭にハチの巣が出来ちゃうってこと!? それは困るなぁ」
「アシナガバチが巣を作り始めるのは4月からだから、今の時期にダヴィンチ君の家に来たのは壁が暖かいからとまって休んでいただけかもしれないよ。でも、4月になっても飛んでくるようだったら、その場所を気に入って、いよいよ巣作りを始めてしまうだろうね」

「そうなったらどうしよう……相手は女王バチだから、一番強くて、刺されたら大変なことになるだろうから、下手に手出しは出来ないよね」
「それがね、実はこの時期のアシナガバチは恐れるに足りないのだよ。なぜなら、女王バチはめったに人を刺さないからね」

「え! そうなの? 」
「ハチは針で人を刺すけれど、その針の正体は知っているかな? ヒントは、ハチに刺されるとそこから毒が入るよ」

「うーん、毒が入っていくってことは、管になっているのかな? カメムシの口みたいに」
「見事、正解! ハチの針はカメムシ目の口のように管になっているんだ。でも、この管は毒を出すためだけにある訳じゃないんだ。ハチの針は、産卵管(さんらんかん)という、他の昆虫にもある卵を産むときに卵が通る管が変化したものなんだ。だから、女王バチの針は、卵を産むときにも使われる。人を刺すことと、卵を産むこと。巣を大きくして繁殖するためには、どちらが大切かな?」

「卵を産むこと、だね!そうか、だから女王バチは人をあまり刺さないんだね」
「そうさ。もし、人を刺した時に、人が抵抗して叩き潰されたり、あるいは刺さっている状態で払われて針が折れてしまったりしたら、もう繁殖が出来なくなってしまうよね。それじゃあ元も子もないから、女王バチは人を刺すことに慎重なんだよ」

「でも、毒は持っているんでしょ? 意味あるのかな? 」
「いくら女王バチと言えども、さすがに手づかみしたりすると刺してくるよ。でも、女王バチの針は働きバチとは構造も違うんだ。働きバチの針は、ノコギリのようなギザギザの歯がついた尖針(せんしん)と、管になっている刺針(ししん)に分かれているんだ。尖針は返しの役割を果たすから、ギザギザでより深く突き刺さって、抜けにくくなる仕組みなんだ。でも、女王バチの針には尖針がなくて、刺してもすぐ抜けるようになっているんだ。なるべく産卵するための管である刺針を傷つけないためにね」

(画像)アシナガバチの針の構造(博士図)。近い仲間である、スズメバチも同様の形をしている。

「なるほど。じゃあ、巣が出来ちゃったら女王が一匹の内に追い払えばいいんだね」
「そうだね。網なんかで女王バチを捕まえておいて、その隙に小さい巣を回収してしまう。そうすると、ハチは巣を作る場所を変えるよ。近くに巣を作らせないためには、ハチ用の駆除スプレーを周りに吹きかけておくのが良いよ」

「わかったよ。もし巣が出来ちゃったらやってみるね。でも、今年初めて出会うハチがアシナガバチになるなんて、思ってなかったよ。春にはミツバチ、夏にはスズメバチやアシナガバチってイメージだからなあ……そういえば、ミツバチはどんな風に増えるんだろう?まさか、春にいるミツバチもみんな女王バチ?」
「いや、春に外にいるミツバチはみんな働きバチだよ。彼らはアシナガバチより体が小さくても、働きバチが越冬出来るんだ。よし、次はミツバチについても教えてあげよう! 」

PART2へつづく

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