親子で楽しむ! 新連載「いきもの博士の研究室」ARTICLE

「実は臭くない!? カメムシ目は、奥深い! 」PART1

生き物が大好きで、なんでも知りたがりのダヴィンチ君。
家のすぐ近くにある、いきもの博士の研究室にいつも遊びに行っています。
優しいいきもの博士は、いつもダヴィンチ君の質問や疑問に答えてくれます。
そんな二人の研究室でのお話を中心に、昆虫をはじめ、生き物の生態、活動、不思議を
連載でお届けします。ぜひ、お子さまと一緒にお楽しみください!
これを読めば、生き物がもっと好きになる!

ダヴィンチマスターズ「いきもの博士の研究室」

 「実は臭くない!? カメムシ目は、奥深い!!」(PART1~4 ※全4編)

PART1「ワクサ」ってなんだ?

ダヴィンチ君は冬の暖かい日、嫌なニオイを出すことで有名なあの虫を見つけました。
その時、隣にいた友達は、見つけた虫を「ワクサだ!」と呼びました。

ダヴィンチ君「こんにちは、博士!」
いきもの博士「こんにちはダヴィンチ君。今日はどんな生き物と出会ったのかな?」

「今日は学校でね、ワクサって呼ばれている虫を見つけたんだ。つかまえようとして触ったら、急に臭い匂いを吐き出したんだ!ふーっ臭かった…」
「それはたいへんだったね。写真はあるかな?」

「先生にとってもらった写真がこれ」


(画像1)クサギカメムシ。成虫で冬を越す。その際、人家に侵入することもよくある。

 博「これはクサギカメムシだね。このカメムシは成虫で冬を越すから、今日みたいな暖かい日には日光を浴びに外に出てきたりするんだよ。捕まえるときは、ティッシュを何枚か重ねて持って、そっとつかんであげると臭いを出しにくいよ」

「へえー、やっぱりカメムシだったんだ。あのね、僕は見つけたとき、カメムシだ!って思ったんだけど、友達はワクサだ!って言うんだ。だから図鑑で調べてみたんだけど、載ってなくて。ワクサとカメムシは一緒なの?」
「うーむ、もしやその友達の出身は、群馬県かな?」

「え!なんでわかったの!?確かに、群馬県から来た転校生だよ」
「群馬県の方言では、カメムシのことを“ワクサ”と呼ぶんだ。ワックサとも呼ぶから、臭いにおいを出すことが由来みたいだよ」

「そうだったんだ」
「ほかにも色々な地域で呼ばれているヘッピリムシ(北海道)とか、ヘクサムシ(山形県~福島県)とか、カメムシの方言には臭いにおいを出す理由のものが多いよ」

「やっぱり、カメムシといえば臭い虫ってイメージだもんね」
「そうだね。カメムシは敵から身を守るために嫌なにおいを出すんだけど、これはどこか出てくるか知ってるかな?」

「うーん……おならみたいに、お尻から出すのかな?」
「いや、彼らは胸の裏側にある臭腺(しゅうせん)とよばれる場所からにおいを出すんだ。臭腺の中にはにおいの元になる色々な化学物質が入っているよ」

「えっ化学物質!?」
「臭腺の中に入っている化学物質はカメムシの種類によって違うから、カメムシにも色々なにおいがあるよ」

「僕が見つけたクサギカメムシのにおいはどんな物質なの?」
「クサギカメムシのにおいは、タイ料理なんかに使われるハーブのパクチーに近いにおいかな。パクチーはカメムシ草とも呼ばれるんだけど、実際ににおいの成分を調べると、パクチーにもカメムシにも同じアルデヒドという種類の化学物質が含まれているんだ」

「料理に使われるハーブに近いのか。、じゃあ、もしかしてそんなに臭くない?」
「まあ、そこは人によるかな。クサギカメムシはカメムシの中でも特に臭いと言われることが多いんだけど、タイの人に聞けばまた違ってくるかもね」

「じゃあさ、皆がいいにおいがするって思うようなカメムシもいるのかな?」
「実はいるよ。例えば、オオクモヘリカメムシというカメムシはリンゴのようなにおいを出すよ。ほかには、甘いフレーバーのようなにおいを出すオオトビサシガメという種類もいるんだ。」

「そうなんだ。じゃあ、いいにおいで、ほかの生き物が寄ってこないの?」
「人間にとってはいい匂いでも、鳥やほかの生き物にとっては強烈なにおいだから、問題ないんだ。カスミカメムシの仲間には、人間にはほとんど感じられないにおいを出す種類もいるよ。」


(画像2) カスミカメムシ科ケブカキベリナガカスミカメ。においはほとんどしない。

「色々いるんだね。これだけ色々なにおいがあったら、におい成分が毒っていうカメムシもいるんじゃない?」
「サシガメというカメムシの仲間は、身を守るために、口にある針で人間を刺して毒を入れることがあるよ」

「それって、刺されたらどうなるの?」
「ハチに刺されたような痛みと、あとからかゆみが出るけど一週間もすれば治るよ。人間にとって、毒になるにおいを出すカメムシはいないけど、、カメムシのにおいはカメムシ自身には毒になるんだ」

「え?それじゃあ、体に毒が回って死んじゃうんじゃないの?」
「それは大丈夫。臭腺の中にあるうちは、においの成分はまだ液体なんだ。これを外に出すときに、ガスに変えて出す。そうすると空気とにおいガスが混ざって、あたりににおいが広がるという仕組みなんだ」

「においの正体はガスだったんだね」
「そう。このにおいガスは、空気と混ざってどんどん広がっていきながら薄くなるから、外でにおいを放ってもカメムシは平気でいられる。でも、ペットボトルの中とか、においガスがその場にとたまりやすい状態だと、においガスの毒によってカメムシ自身がやられてしまうんだ。これくらい危険だからこそ、身を守るのに役に立つんだよ」

「なるほどね」
「カメムシは甲虫と違って固い体や羽で覆われていないから、においを出すという変わった方法で身を守っているんだ。」

「固い羽じゃないの?見た目はけっこう固そうだけど」
「確かに、クサギカメムシの羽はけっこう固そうに見えるね。けれど、甲虫の羽を強くしているキチン質という成分がだいぶ少ないから、とても柔らかいんだ。それでも、甲虫ほどではないけど、固い部分もある。固い部分と、柔らかい部分を半分ずつもっているから、カメムシの仲間を半翅目(はんしもく)とも呼ぶよ」

※カメムシ目の別名が半翅目。一口に半翅目と言っても、すべての半翅目が固い羽と柔らかい羽の両方を持つわけではない。

「カメムシって、どこからどこまでが羽なのかもよくわからないなあ」
「カメムシは種類によって、羽の形も色々あるよ。よし、次はカメムシの羽について教えてあげよう!」

PART2 カメムシの羽は、固い?それとも柔らかい?

カメムシの仲間は半翅目とも呼ばれます。固い羽と柔らかい羽の両方を持っていることからきた名前ですが、カメムシの羽はいったいどうなっているのでしょうか?

ダヴィンチ君「そもそも、カメムシの羽って、どこからどこまでなの?」
いきもの博士「結構変わった形をしているから、わかりづらいよね。次の写真の、赤い線から下が、羽の部分だよ」


(画像)カメムシ科ツノアオカメムシ。張り出した胸が特徴。

 ダ「下に折りたたまれているんだね。カメムシの羽は何枚あるの?」
「上の羽(前翅)と下の羽(後翅)が2枚ずつ、全部で4枚あるよ。でも、写真で見えているのは、上の羽の2枚だけだよ」

「あれ? 緑色のところと、茶色のところが見えているけど、これは上の羽と下の羽じゃないの?」
「緑色の部分と、茶色の部分は同じ左の上の羽で、つながっているよ。この下にもう2枚羽がたたんであるんだ。色が違うこの2つの部分は、緑色の部分のほうが厚いんだ。。厚くなっているということは、その分固くなっているということでもある。薄い部分のしなやかな動きと、厚い部分の防御力を兼ね備えているのが、カメムシの羽なんだ」

「へえー。カメムシの羽ってすごいんだね。」
「でも、甲虫に比べると、厚い部分も柔らかいから、カブトムシなんかと比べると防御力は弱いよ。けれども、カメムシの中にはこんな羽をもつ種類もいるよ」


(画像)キンカメムシ科ナナホシキンカメムシ。キンカメムシ科のカメムシは、そこまで臭いにおいではない。

「わあ、キラキラだね!」
「このカメムシはナナホシキンカメムシという。沖縄にいるよ。キラキラした模様は構造色(見る角度によって色が変わる→「コガネムシ」PART3参照)で出来ているんだ」

「なんだか、コガネムシみたいだね。このカメムシも羽は同じつくりなのかな?」
「実はこのナナホシキンカメムシの写真では、羽はまったく見えていないよ」

「そうなの!?じゃあ羽はどこ?」
「背中に見えているのは、全て小楯板(しょうじゅんばん)という部分だよ。さっきのツノアオカメムシの羽がV字に見えるのは、この小楯板が羽の間にあるからなんだ。この部分が、キンカメムシの場合、羽全体を覆い隠すように発達している。だから、羽は見えないんだよ」

「なるほど。でもこれじゃあ、小楯板が邪魔で飛べないんじゃないの?」
「いや、ナナホシキンカメムシは飛べるよ。飛ぶときは、小楯板(昆虫の中胸・後胸にある。羽の付け根の三角形の部分の形)と腹の隙間から4枚の羽を出してうまく飛ぶんだ。柔らかくてダメージを受けやすい羽や腹を小楯板で守っているから、ナナホシキンカメムシには甲虫並みの防御力があるよ」

「すごいね!こういうキラキラなカメムシなら、飼ってみたいな。カメムシって飼えるの?」
「カメムシは種類にもよるけど、イチゴやバナナなどの果物で飼えるよ。飼育するときは、通気性の良いケースで、においを出さないようにやさしく扱ってね」

「そうだよね。においはカメムシにとって毒だもんね。ナナホシキンカメムシに近い仲間は、東京にもいるの?」
「アカスジキンカメムシという、同じキンカメムシ科のカメムシは東京でも見られるよ」


(画像)キンカメムシ科アカスジキンカメムシ。この種も小楯板が羽を隠している。

「こっちもなかなかキレイだね!どんな場所にいるの?」
「5月ごろに雑木林の日当たりのよい道を歩くと、植物の葉にとまっている白黒模様の幼虫がよく見つかるよ。果物で飼育できるから、探してみるといいよ。羽化したてのアカスジキンカメムシは、全然違う色をしていてキレイだから、ダヴィンチ君にも実物をぜひ見てほしいな」


(画像)羽化したてのアカスジキンカメムシ。左は、幼虫の抜け殻。

「オレンジ色だ!」
「体が固まっていくうちに、だんだんと緑色に変わっていくんだ」

「色が変わっていくところは面白そう! まさか、いやなにおいを出すカメムシを探してみたくなるとは思わなかったよ」
「いいことだね!カメムシの奥深さがわかってきたってことさ。でも実は、ダヴィンチ君はすでにカメムシの奥深さに触れていたんじゃないかなと博士は思うよ」

「えっ! どういうこと?」

PART3へつづく

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