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2018年11月09日 19:37

灘中学校・高等学校の和田孫博校長
ダヴィンチマスターズ保護者向け講演会より

2018年4月22日に神戸大学(兵庫県神戸市)で開催された「第7回 ダヴィンチマスターズ」では、小学校1年生から3年生までの子どもを対象にした、ゲームや実験を通して科学や数理への興味を抱くきっかけ作りの場を提供する様々なプログラムが展開。同時に、保護者向けに特別講演会「子どもの好奇心の伸ばし方」が開催され、灘中学校・高等学校の和田孫博校長、LLP ASOBIDEAの山田力志代表、SAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎共同代表が登壇し、教育に関する様々なお話をお聞きすることができました。ここではその模様の中から講演会冒頭に登場した、和田校長のお話をお届けします。


 

和田校長「主体性・多様性・協働性は私学が培ってきた力」

灘中学校・高等学校 和田孫博校長(以下、和田校長) 2018年の4月から、兵庫県私立中学高等学校連合会の副理事長に就任したのですが、そうした立場からも、私立には多様な学校があるということを、灘中学校・高等学校を例に挙げながら、お話ししたいと思います。

まず私立中高一貫校の魅力として、「主体性・多様性・協働性」が育みやすい環境があることが挙げられます。文部科学省は大学入試改革の中で、「主体性・多様性・協働性」は、これからの生徒たちに求められる学力の一つとしています。

 

主体性はつまり生徒自身が主体的な力で取り組むということ。多様性は一人の人間のなかにある多様性と、世の中にはいろんな人がいるという多様性の両面で、自分の個性も他人の個性も認め合うということ。それが例えば様々な学校があるといことを認め合うことであり、ひいては様々な国があって当然だと認め合うことにつながります。そして「自分や自国こそが一番」と主張し合うのではなく、協働していこうという力が求められると、文科省でも定義しているわけです。

 

公立では均質な授業が求められますが、私学では各学校に特色がある。そう考えるとこの主体性・多様性・協働性はそれこそ私学がこれまで培ってきた力と言えます。

 

少子高齢化による社会構造の変化で求められる能力が変わる

和田校長) 今のお子さんたちが社会人として活躍する20~30年後の日本では、少子高齢化がますます進み、社会構造もこれまでとは全く変わってきます。

 

例えば今までは、ライバルがたくさんいる中で競い合い、社会の成功者として“勝ち組”が生まれる仕組みがありました。しかし今後目指すべきは人口が減少しても持続可能な社会で、そのためには助け合いが必須です。

 

これまでの日本では国内生産・国内消費が前提になり、社会が成立していました。しかし国内需要が減り、海外へ活路を見出さなければならなくなってきています。実は、灘校の母体は酒造会社なのですが、国内での需要は低迷し続けており、近年は欧州、特にワインの国フランスなど、「ワインよりおいしい」と言ってくれる海外の人に向けて商品を展開しています。消費についてはこうしたことが、あらゆる業界で広がっていくでしょう。また、人口減少はすなわち労働人口の減少も意味しますので、外国人の労働者も増加の可能性が高い。すると、英語力(語学力)も含め、グローバルな力が必要になる。

 

社会構造として、もう一つお伝えしたいのが20~30年後に訪れるIT革命による変化です。これは日本に限らず、世界的に今ある仕事の半分以上は、コンピューターに取って換わられ、一説によると銀行は無人化が可能ではないかとさえ言われています。すでに長らくの間、ATM(Automatic Teller Machine/現金自動預け払い機)やキャッシングの自動契約機が活用されていますから、それを現在の窓口と呼ばれる場所でも導入すれば、無人化が進むのではないかということですね。2045年もしくは最近の研究ではもっと早くに、シンギュラリティ(技術的特異点)、つまり人工知能(AI)が人間の頭脳を超える時代が来るのではないかと予測されていますし、世界的に危機感を抱く層が増えていると言えるでしょう。

 

まとめますと、今後求められるのは、「グローバルであること」「ITを使いこなせること」。つまり「ICT(Information and Communication Technology/情報伝達技術)を駆使できるグローバリスト」を育成することが、重要になるでしょう。

競争ではなく協働の世界で生きていけるかどうか

和田校長) 具体的には英語だけでなく、ICTの能力も備えた人材の育成ということになります。

 

ICTについては、大きく不安に思う必要はないと私は考えます。今の子どもたちはITネイティブ世代です。コンピューターもスマートフォンも生まれた時からあって、接している。どんなにAIが進んで人間を超える能力を持つコンピューターが生まれても、子ども世代はそれらを活用し、その恩恵を人間に戻してくれるでしょう。

 

一方、グローバルについては「英語力」より他国や自分たちが知らない世界でやっていける能力が本来の意味。自身のことをよく理解したうえで、他のいろんなことも理解できる能力が必要なわけですね。その礎となるのが、中等教育での教養ではないかと思います。

 

また、単に世界各国という意味だけでなく、「全く違う環境」に置かれても働けるかどうかもまた、グローバルな力。多様な人と協働できるかどうかもグローバルで問われる力。何もかも一人でオールマイティーにできることより、自分の得意技を認識して「これなら自分に任せて」と懸命に取り組めるかどうか。それ以外のことは他の人に任せられるかどうか。必要なのは互いの特徴を出し合って、協働していくこと、競争ではなく協働の世界で生きていける人材こそがグローバル人材であり、育成すべき人材なわけです。

 

個性を伸ばし、つながりを強化する私学の体制

和田校長) グローバルな能力を育むのに役立つと私が考えるのが、中高一貫校の私学の建学の精神です。

 

私学には建学の精神があるものですが、灘校の場合「精力善用、自他共栄」で、これは創設者である嘉納治五郎によるもの。嘉納治五郎は柔道を始めた人物で、「精力善用、自他共栄」は柔道の精神ですね。

精力善用はすなわち自分が持つ力を最大限に発揮する。例えば体が小さくても、自分の力を最大限に発揮するということが大事というようなこと。自他共栄は、人は一人で強くなれるわけではない、いろんな人と共に練習をし、勝ったり負けたりしながら伸びていくということ。一人が幸せになるのではなく、みんなと共に幸せになっていこうという教えです。

 

こうした私学の建学の精神は、学校教育において生かされていきます。

 

また、私学では多様な生徒に柔軟に対応できる仕組みがあります。例えばコース制。理数系コース、アート系コース、あるいはアスリートコースを創設するなど、灘校にはこうしたコース制はありませんが、公立ではできない能力別コースを設けることができる。またクラブ活動など課外活動も、私学は力を入れやすい環境があると感じますし、それが生徒たちの個性を伸ばす助けになる面があるんですね。

 

もう一つ私学の特徴として、長期展望が可能ということがあります。

 

特に中高一貫校は6年を通したカリキュラムが組めます。また公立は配転があるため同じ学校にずっとい続ける先生はいないと思うのですが、私学は教職員の定着率が高く、灘校なら着任から定年までずっといるという先生がほとんど。卒業後10年たって学校に来てみたら、やはり習った先生が元気でいる。すると、当然、母校愛もできてきますし、OBとのつながりも強くなりやすい。

 

もちろん、教職員が6年間、生徒の成長過程を見ていけるのもメリットです。灘校では中1から高3まで、担任一人制ではなく、いろんな教科の先生がチームをつくり、そのチームが担任となる学年団での持ち上がり制です。すると同学年の生徒同士の横のきずなも、生徒と教員とのきずなも強くなりやすい。卒業するころには疑似親子、疑似きょうだいのような関係が築けていることもあるくらいです。先輩と後輩の間でも6年通してできる部活をはじめ、文化祭や生徒会など自主性を重んじて行われる活動で、縦のきずなが強くなる傾向があります。

 

市民性を身に付ける「キャリア教育」を重視している私学も多いでしょう。

 

例えば灘校ではOBを中心にした「土曜講座」を開講しており、各界で活躍するOBが手弁当で講義やワークショップを行ったり、茶道や盆栽や音楽などの趣味を深掘りしたりというようなことを実施。また、異文化交流、国際交流などにも積極的で、ネイティブの授業や英国異文化研修の実施、「十か国シンポジウム」という、欧米だけでなくて、南アフリカ、コロンビア、シンガポール、インド、パキスタンなどの学校に行くなどもしています。

 

さらに井の中の蛙にならないように、養護学校との交流、障がいをもつ方を講師に招いての授業、東北訪問やOBを訪ねての東京合宿などにも積極的です。

 

こうした経験が生き、海外で活躍する卒業生も輩出し、日本の大学から留学するのではなく直接海外の大学に進む生徒も出てきています。

学校の個性、子どもの個性を見極めて学校選びを

和田校長)  最後に、私立中学や私立高校選びに際してのヒントをお話しします。

 

まず、私立は公立よりも多様で、個性的です。宗教に根差した学校、大学が併設されている学校、朝から晩まで学校に来てもらえたら塾に行く必要がないというほど授業時数が多い学校、灘校のように公立とあまり変わらない授業数の学校、校則が厳しくてきちんとしつけをやってくださる学校、自主性を広く認める学校、教職員がしっかり指導することをメインにしている学校、生徒たちの自治的な能力がメインの学校など実に様々。

 

灘校の場合、無宗教で、多くの私学が週6日制の中、授業が週5日制。明文化された校則はなく、行事や部活、生徒会は生徒主導という特徴があります。

 

こうした例えば文化祭や学校説明会、セミナーなどを活用して個性を見極めつつ、お子さんに合った学校選びは、保護者の方の責任のもと、していただくのがいいかと思います。

 

ダヴィンチマスターズのイベントは、多種多用なプログラムがあり、好きなことができる、つまり個性を伸ばすいい機会になると思います。同様に私立学校は学校そのものが個性を伸ばすのに適した環境であると思います。ぜひ、学校選びの参考にしてみてください。

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