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2019年04月09日 17:56

保護者向け講演会「子どもの非認知能力を高めるための親の役割」より【前編】

2019年2月3日(日)に大阪大学(大阪吹田市)で開催された「第12回ダヴィンチマスターズ」。小学校1年生から3年生までの子どもを対象に、実験や観察などの体験を通じて科学や数理への興味を抱く“きっかけづくり”を行なうプログラムを展開しました。

同時に「子どもの非認知能力を高めるための親の役割」をテーマにした保護者向け特別講演会を開催。慶應義塾大学 総合政策学部 中室牧子教授による基調講演の後、中室教授、灘中学校・高等学校の和田孫博校長、SAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎共同代表が登壇し、非認知能力(非認知スキル)に関する疑問や研究データについてお話くださいました。
ここでは講演から、ダヴィンチ☆マスターズが注目するポイントをいくつか皆様にお届けします。

1.非認知スキルは誰かから教わることで育まれるもの

認知スキルはいわゆる学力でIQなどで測れる力のこと。対して非認知スキルはIQや学力テストなどの認知能力ではないもの全般のことを指します。

基調講演で中室先生は、非認知スキルには「自己認識」「意欲」「忍耐力」「自制心」「メタ認知ストラテジー」「社会的適性」「回復力と対処能力」「創造性」「性格的な特性」の8つがあると説明。こうしたお話は中室先生の著書『「学力」の経済学』にもありますが、なかでも低学年の子どもを持つ親御さんたちには「『自制心』と『やり抜く力(GRIT)』」の重要性を伝えたいとお話しされました。

また、非認知スキルは誰かから教わることで育まれるものだとも指摘。低学年の子どもであれば、最も強い影響を与えるのが、身近なお手本となる親や学校の先生、上級生、同級生といった、子どもたちが属する社会で出会う人たち。「こうした人たちの影響を受けて、非認知スキルが形成されていくと考えられます」と中室先生。

では具体的に、家庭や学校ではどんな環境を提供していけばいいのでしょう。

2.「自分の力で学んでいく能力」を伸ばすため「手を掛けない」

「非認知能力を育てる環境にある灘中学校・灘高等学校では、どんなことをしているのでしょうか」という高宮敏郎共同代表の質問に対し、和田孫博校長は次のように答えました。

「入学以前に培ってきた非認知能力を図る術はないのですが、入学時の成績と入学後の成績には意外と相関が少なく、追加合格になった生徒でも成績の上位に入るようになることも多々あります。この点から考えると、入学後の学習習慣を早く身に付けられる生徒、すなわち『自分の力で学んでいく能力』が高い人ほど、本校の教育に慣れていくところがあるかと思います」(和田校長)

また灘校ではスポーツやクラブ活動などが活発で、こうした活動に没頭する生徒は多いそう。とはいえ「試験前は我慢、つまり自制して勉強できる人ほど、うまくいく傾向がある」(和田校長)ため、「灘校では自律心と呼ぶ自制心」を磨くため、教員も保護者も「手を掛けない」教育をしていると言います。

「制服がないのもある意味、手を掛けない教育の一つです。制服なら前日脱いだものをまた朝着ればいいでしょうけれど、私服となると周りの目も気になるでしょうし、季節感を考えた服を自分で選ばなければなりませんよね」(和田校長)

手を掛けない教育は、非認知能力の一つである「意欲=内発的モチベーション」を高めるのにも役立つと考えられます。灘校は、「『新しいことを知りたい』という好奇心、新しいことを知ったときの喜びに敏感な生徒が多いようだ」と和田校長が言う通り、もともと学びに楽しさを感じる生徒が多いながらも、手取り足取りになり過ぎない教育が生徒の力を伸ばしているようです。

3.非認知スキル、男女間で能力の差はなくて性質の差はある

実は高宮氏、男女の双子を育てるお父さんでもあります。「個人的な差なのか男女の差なのか、二人の性格はずいぶん違う」という高宮氏からの「非認知能力に男女で差はあるものなのでしょうか。その場合、教育のうえで気を付けるべきことはありますでしょうか」との質問に、中室先生は、「おそらく男女のごきょうだいを育てていらっしゃる親御さんは、男女の気質の違いは日々、お感じになるのではないか」と話され、以下のように回答しました。

「男女間の非認知能力の差に関する研究は、私が非常に関心のあるテーマの一つですが、男女差が大きいものの一つとして挙げられるのが、『競争心』です。結論から言いますと、男子は基本的には競争心が高く、女子は競争心が低いという結果が出てきています。例えばアメリカで行われた研究に、徒競走で男の子は競争相手がいたほうがタイムが早くなる傾向があるものの、女の子は隣に競争相手がいると自分一人で走った時よりタイムが遅くなってしまうというデータがあります」(中室先生)

男の子場合、順位を伝えたり「●●ちゃんに負けないように」と伝えることがモチベーションを高めるために有効かもしれないのですが、同じことを女の子にすると逆にモチベーションを下げる可能性があるというわけです。

「経済学で『リスクテイキング』などとと呼ばれる能力も男女差が大きく、例えば受験校選びで男の子は実力より少し上の学校を選ぶ傾向がありますが、女の子は自分の実力よりも下のところを狙うとされ、その性質は成人になっても持ち越す傾向がある」(中室先生)と言います。

「つまり、平均的に見れば男女間で『能力の差』はなくても『性質の差』はあるということなんです。ご両親がそのことをきちんと把握したうえで、それぞれに適した育て方や関わり方をするというのは非常に有効なことが多いのではないかと思います」(中室先生)

──後編に続きます。

慶應義塾大学 総合政策学部 中室牧子教授
1975年奈良県生まれ。1998年慶應義塾大学卒業。米ニューヨーク市のコロンビア大学で学ぶ(MPA, Ph.D.)。専門は、経済学の理論や手法を用いて教育を分析する「教育経済学」。日本銀行や世界銀行での実務経験がある。2013年から現職。産業構造審議会等、政府の諮問会議で有識者委員を務める。著書「『学力』の経済学」(ディスカヴァー・トウェンティワン)は発行部数累計30万部のベストセラーに。津川友介氏との共著『「原因と結果」の経済学』(ダイヤモンド社)も。

灘中学校・高等学校 和田孫博校長
1952年大阪府生まれ、灘中学校・灘高等学校出身。1976年に京都大学文学部卒業後、母校に英語科教諭として着任し、野球部の監督・部長を務める。2007年より現職。「精力善用」・「自他共栄」の校是の下、「生徒が主役の学校であり続けよう」というスローガンを掲げている。共著に『教えて! 校長先生 – 「開成×灘式」思春期男子を伸ばすコツ』(中公新書ラクレ)、監修に『未来の扉をひらく 偉人のことば』(新星出版社)がある。

SAPIX YOZEMI GROUP共同 高宮敏郎代表
1974年生まれ。1997年慶應義塾大学経済学部卒業後、三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。2000年4月、祖父(故高宮行男氏)の興した学校法人高宮学園に入職。同年9月から米国ペンシルベニア大学に留学し、大学経営学を学び、教育学博士号を取得。2004年12月帰国後は、同学園の財務統括責任者として従事し、2009年から現職。